PARACAGE【ars】 (ページ34)

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34.マグ。ページ34

翔さんが、部屋に帰り
ニノくんがお風呂に行って。

潤くんは相変わらず映画を観てるけど、隣に座ってたはずの智くんの頭が見えなくなったからきっと寝転がってるんだろう。

つまり、私と雅紀くんだけがダイニングに座ってる状態。
対角線ってゆー、何とも微妙な感じで向かい合わせ。

「あ。Aちゃん、それ」

雅紀くんが私の手元を指差した。
指が示してるのは、私のマグ。

「もしかして、ギミスタ？」
「あ...はい！新作なんです」
「うっわ、めっちゃ可愛いね！」
「ありがとうございます！」

咲くんがうちの商品を褒めてくれたー！な気持ちがそんな簡単に無くなるはずも無く、この素敵な出来事をお店のスタッフに報告したい位だけど出来ないのがもどかしい。
絶対、みんなも喜ぶんだけどな...。

「すっごく好きなデザイン！」

あ、潤くんの読み通り。

「俺も欲しいなぁ」
「え？」
「あー...でも、お店行ける日あるかな...」

雅紀くんが視線を斜め上にして、何か考えてる。
スケジュールを思い出してるのかしら。

でもこのマグ限定品だから、在庫少なかったよなぁ。
今週で売り切れるかもしれない。
忙しい合間を縫ってお店に行ったのに売り切れだったら、気の毒過ぎる。

「良かったら、これ...雅紀くんが使って下さい！」

その方がこのマグも喜ぶだろうて。
私は別に他のを買ってくれば良いんだし。

「えっ？そんなの悪いよ！」
「良いんです、良いんです」
「だって、Aちゃんのマグ無くなっちゃう...また買わなきゃでしょ？」
「私、社割あるんで」

ヘヘーン、とピースしてたら雅紀くんが「社割！」って目をキラキラさせた。

「だから、遠慮しないで貰ってやってください」

コーヒーを飲み終えて空っぽになってるマグをちょっと持ち上げる。

「あ、じゃあさ」

雅紀くんもマグを私と同じように、ちょっと持ち上げた。

「これ、Aちゃんにあげる」

今日、お店でさんざん「欲しい」と思って手に取ってたそのマグを

しかも『お揃い』なんてレベルじゃなくて、雅紀くんの使ってた物を

くれる、と言う。

「え...えっ...！」
「交換しよ！...って、俺のは中古だからゴメンなんだけど」
「そんなの全然！」

むしろ、中古だから価値がある！！

私達は一緒にキッチンに行き、並んでマグを洗う。

キッチンはそんなに広い訳じゃない。

雅紀くんの左腕が私の右肩に当たる度に、甘ったるい溜息が漏れ出しそうになる。