PARACAGE【ars】 (ページ23)

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23.その部屋の住人。ページ23

部屋を出ると、お向かいにある紫色のドアが開いた。

中から、眼鏡を手に持った潤くんがゆらっと出て来る。
右側の髪がモサっとなってる。

紫が潤くんって事は、赤が翔さん。
全部の部屋の住人が分かった。

「おはようございます」

私が言うと、潤くんはそのモサっとなってる頭の右側をガシガシと掻きながら眼鏡を掛けた。

「あぁ...アンタか。また知らない姉ちゃんかと思った...」
「え？」
「いや、何でも無い。おはよ」

潤くんが廊下を歩いて行くから、私もその後ろを歩く。
階段を降りてる途中で「仕事まで時間あんの？」と振り返った潤くんに言われて「多少は」って応える。

「コーヒー、飲む？飲むなら淹れるけど」
「え、良いんですか？」
「一杯淹れるも二杯淹れるも、一緒だから」
「あ...じゃあ、お願いします」

潤くんはそのままキッチンへ。
私は洗面所で顔を洗ってからダイニングに行く。

何もしなくて良いんだろうか...。
そう思いながらダイニングで座ってると、潤くんがマグカップをふたつ持って来た。

「はい」
「あ、ありがとうございます」

良い匂い。
思わずズゥゥっと鼻から香りを吸い込む。

「すげぇ鼻の穴膨らんだ」
「えぇっ！？」

クス、と笑いながら潤くんが目の前に座った。

「そのマグ客用なんだけど、自分のマグあるならキッチンの戸棚に置いてて良いし」
「はい。今日、買って来るつもりなんです。ベッドシーツも一緒に」
「仕事帰りに？」
「んー...ってゆーか、職場に売ってるんです」
「職場？」
「インテリア雑貨のお店で働いてて」

へぇ、ってちょっと目が大きくなった。

「潤くんはどんなお仕事されてるんですか？」
「SE」
「SE...」
「システムエンジニア」
「あぁ！IT系！社長？」
「何でIT系って聞いたらすぐ社長になんの」

...確かに。
『IT系＝IT社長』みたいに連想ゲームしてた、一人で。

潤くんは、呆れたような顔で笑ってる。

とっつきにくい感じだけど、笑うと優しそうな顔になる。
もっと笑ったら良いのに...なんて、大きなお世話か。

「おっはよー」

その時、少し掠れた声がダイニングに入って来た。

「あ、Aちゃん。おはよ！」
「お...はようございます」

寝起きの雅紀くんは、目がちょっと腫れてる。

「俺もコーヒー飲みたい」
「ポットにまだちょっと残ってる。冷めてるかもだけど」

潤くんが言うと「冷めてる位が良い」って、雅紀くんはキッチンに入った。