PARACAGE【ars】 (ページ20)

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20.頷く。ページ20

だって、家なんて仕事の疲れを取る為に帰って来るんだし、仕事の事は忘れたいだろうし...ほら、咲くんって呼ばれたくないって言ってたし！

そんな場所にファンが一緒に住んでるなんて、絶対に嫌なはず。
もしかしたら、モデルって事だって知らない人の方が彼としては有難かったのかも...

「...知らない振りすれば良かったかな...」

でもそれは、もうどうにもならない。
とにかく、私が『咲ファン』だって事は口が裂けても言えない。
雅紀くんだけじゃなくて、他の住人さん達にもバレないようにしなきゃ...。

「あー...こんな事って...」

ありますか？
普通、こんな事ってありますか？無いです。

落ち着く為に、ちょっと現実的な行動をしようとベッドの上に乗ってる圧縮袋を開けてお布団を出す。
ベッドメイキングして、そこに腰掛けた。

その数秒後。

トントントン、とドアがノックされて「Aちゃーん」と外から呼ばれてベッドから落ちた。
雅紀くんが、そのドアのすぐ前に立ってるんだ...。

「はっ...はーい！今、出ます！」

精一杯動揺してない振りして、ドアを開ける。

「あ、Aちゃん！お先でしたー」
「...は、い」

お風呂上がりの雅紀くんが、そこに居た。
首にタオルを引っ掛けて、濡れた髪に着心地の良さそうなセットアップ。

そして何より、石鹸の香りがしてクラクラ。

「お風呂、空いたから使ってね？」

こくこく、頷く。

「お風呂場にもシャンプーとかあるけど、自分が使ってるのあるなら持ってってね」

こくこく。

「入る前に、ちゃんとニノちゃん達に声掛けなよ？じゃなきゃ、間違って入って来ちゃうかもしんないから」
「あ...はい！」

私が応えると、雅紀くんがニコッと笑って頷いた。

「じゃあ、おやすみ！」
「おやすみなさい...」

フワァとあくびした彼が背中を向けたと思ったら、ふっと振り返る。

「今日からお隣さんだね」

右頬がキュッと上がる。

また明日、と言った雅紀くんが鴬色のドアに入って行った。

お隣さん...

その響きに、もうドキドキ通り越して吐き気。
暫くその場に立ち尽くす。

「...あ、お風呂...」

さっさと入らなきゃ、ニノくん達の迷惑になるって気付いて慌てて着替えなんかを持って1階に駆け下りた。

「お風呂頂きます」

リビングでテレビを観てるニノくんに声を掛けて、お風呂場に入ると

さっきまで人が居たんだな...って分かる熱気と湿度。それが雅紀くんなんだから。

全部がいちいち息苦しい。