アクリル恋模様 (ページ5)

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天国よりも幸せな/kn ページ5

※死を仄めかすような表現が多々あります。苦手な方はご注意ください。

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正直、いつものことだと思った。

『きん、とき……ごめ、な…ぃ……っ』
「大丈夫だよ。ほら、俺怒ってないから。ね？だから腕見せて？」
『やだ……』

イライラが重なって頭がおかしくなって、カッターで腕を引っ掻く行為を繰り返す。
といっても、深く傷つけるなんて怖すぎるから猫に引っかかれた程度の薄い傷しか作れないんだけど、それでもきんときは目ざとく見つけては丁寧に手当をしてくれる。

それが私の、定期的に来る心の風邪の症状みたいなものだ。

「消毒するね」
『……い゛っ』
「もう、痛いならこんなことしちゃダメだってば」

臆病で我儘な私はこうして地味な痛みに耐えながら、彼に体重も心の重りも預けてべたべたに甘えるところまでがいつものパターンだった。
アルコールの染み込んだコットンで消毒をして、薄くガーゼを貼る。

この保健室を思い出すような、鼻につくような消毒液の匂いは気持ちの良いものではないはずなのに、心地よく感じてしまうのは何故だろう？

ここまで丁寧にしなくていいのに、なんて思うけどいつも俺がしたいのと微笑まれると私もそれ以上何も言うことはできなかった。

「はい終わり。もうこんなことしたらダメだよ？」
『……ねえ、なんできんときはいつも優しいの？』
「え？なんでって」
『だって、私すぐ小さいことでイラついて、いつもきんときの気を引こうとしてできもしないリスカなんかして、私、わた、し……っ』

散々泣いたあとのはずなのに、私の目からはまた涙が溢れ出てくる。
それでもきんときは懲りずに1粒1粒を拭うように、私の目元を優しく撫でてくれる。その小さな行動が私を刺す要因のひとつだとも気づかずに、彼はそれでも私を愛し続けてくれる。

もう、こんな自分が嫌だった。きんときが優しいからっていつもメンヘラ全開で迷惑しかかけない。
さらにはなんで私みたいな人間が優しくされてるのか、もうきんときの本心すら信じられなくなってずっと試すようなことしかできない自分が。

『もうやだ……本当に嫌い、自分が大嫌い。わたし、もうしにたい……』
「……そっか」

彼は私をぎゅ、と抱きしめながらそう呟いた。
とくんとくんとあたたかなきんときの鼓動が伝わってきて、頭は混乱しているのに心は酷く落ち着かされるような変な気分に陥ってしまう。