【REBORN】最高の幸せ 5【沢田綱吉】 (ページ8)

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208．わかってたことなのページ8

「……A」

じわじわとAの目に涙の膜ができる。その隙間から、綱吉やハル達の元へ駆け寄った京子が彼に顔を近づけて何かを言っている姿が見えた。

本当に、京子が好きなんだ……。嘘じゃなかったんだ。やっぱり、ずっと一緒にいた幼馴染という肩書きがあったとしても、学校一可愛い京子には勝てるわけがなかったんだ。

Aは涙のせいか目の前が何も見えなくなった。俯いたことで重力が加わりポタポタと瞳から涙がこぼれ落ちる。

「A！」

炎真が何度も名前を呼んでくれているというのに、Aは涙がこれ以上流れないように堪えるのに必死で反応できない。それをわかっているのか否か、炎真は「A、行こう」と元来た道を引き返すように、優しい力で彼女の手首を握って歩きだす。

これからどこに行けばいいのだろう。恐る恐る振り返った炎真の目に写るのは、顔の見えないA。彼女の足取りは重く、ふらふらと手を引かれて歩くだけのその姿は、今にも壊れてしまいそうなくらい儚くて脆いと思った。

結局いつもの場所に来てしまった、と待ち合わせ場所でもあった河川敷に辿り着く。炎真が『映画館に行った方がよかったのかな。でもその道にはツナ君達がいたし……』とグルグル考えていると、Aが自分の意思で階段を降りだして思わず目を見開いた。

「……A？」

人通りが気になったのか＿＿少しでも彼等と距離をとりたかったのか。Aは猫が普段餌を求めてやってくる場所に座り込んだ。付いていくことしかできない炎真が彼女のそばに立つと「猫ちゃん、いないね」とAが呟く。

「そうだね」
「寒いから、暖かい所に移動したのかもね」
「……」
「あはは、落ちてたハンカチ持ってきちゃった。落とし主が現れたら困るよね。……あとで元の場所に戻しに行かないと」
「……」
「あー寒いなぁ、寒い、寒いね炎真。本当に、寒いや……」

突然口数が多くなったかと思えば、すん、と鼻を啜る音が聞こえて、いてもたってもいられず炎真は彼女の隣に座りこむ。Aは、寒さか＿＿はたまた別の理由か、鼻を赤くさせて潤んだ瞳のまま悲しみを隠すように手のひらを擦り合わせていた。

「……A」
「…………」
「あの、さ」
「いいの！」
「えっ」
「……いいの、もういいの、わかってたことなの」

「大丈夫、本当に大丈夫だから」と震えた声で笑ったAを見ていられなくて「何が大丈夫なの？」と炎真は口に出してしまった。