【REBORN】最高の幸せ 5【沢田綱吉】 (ページ7)

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207．俺はお前のことを…… ページ7

Aは目の前の光景から目を逸らせないでいた。炎真のおかげで気分が良くなっていたため、普段は触れないような落とし物を拾った。それが悪かったのだろうか。

「寒くないの？ツナ君」
「笹川京子！話がある」

ドクドクドク、と今までにないスピードでAの脈が跳ねる。そんなAと同様に彼女の背後にいる炎真もその場を動けなかった。今すぐにでもAをここから連れ出さなくてはいけないと頭ではわかっているはずなのに、混乱した頭のせいか目を逸らせないでいたのだ。

その瞬間どこかでぶつかるような衝撃音がしたかと思えば、綱吉達の背後でグラグラと工事中の鉄骨が崩れる様子が見えた。それに気付いた京子は「ツ、ツナ君！」と呼びかけ事態を知らせようとする。しかし、死ぬ気状態の綱吉は目の前の彼女しか見えていなかった。

「俺の話を聞け！」と京子の頬をガッシリ片手で掴んだ綱吉は、グイッと彼女に顔を近づけて言葉を続ける。

「笹川京子。俺はお前のことを……」

スローモーションのようにハッキリとAの耳に入り込む綱吉の声。自分が告白されることは何度も経験してきたAは、他人＿＿否、好きな人の告白シーンが、こんなにも胸が抉られるような痛みを伴うものだとは考えもしなかった。

ただ好きな相手の話を聞かされるのとは衝撃が全く異なる。自分は頬を掴まれたことも、あんなに顔を近付けられたことも、＿＿好きになってもらったことも、ないのだから。

「ツナ君、ハルちゃん達が！」
「ハル！？」

そのとき、落下する鉄骨の下にハルやランボ達がいることに気付いた京子が顔色を変えて綱吉に助けを求める。振り返った綱吉が彼女達を視認した瞬間、「死ぬ気変更！死ぬ気でハル達を守る！」と事故現場に向かって駆け出した。

その背中を追う京子を見たことで我に返った炎真が、慌てて彼等の元へ向かおうとAの顔を一瞥して思わず息を飲む。

「A……？」

Aに気をとられていた炎真が気付いたときには全ては終わっていた。死ぬ気状態の綱吉が守ったハル達は無傷で、傷ひとつない彼の腕に抱えられていることが遠目でもわかる。

無事でよかった、と一先ず安堵して振り返ると、Aは今まで炎真に一度も見せたことのない表情をしていた。

「…………っ」

全てを諦めたような、自嘲や絶望を含んだ光のない瞳。俯き、必死に涙を堪えてハンカチを握りしめている姿が、炎真は不適切にも美しいと思った。