【REBORN】最高の幸せ 5【沢田綱吉】 (ページ12)

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212．ずっと、友達だよページ12

綱吉は京子の頬に触れていた。脳裏に焼き付いて離れないその光景はAの思考を鈍らせる。背中にかけられた上着の存在にも気付けないほど意識がハッキリしていない彼女は、ただただ綱吉のことだけを考えていた。

未来で財布を届けにいくことを言い訳に、見ているだけの自分を変えたくて勇気を出して京子と綱吉の間に入ったことがある。しかし、彼等の距離感を遠ざけるために邪魔をしたバチが当たったのだろう。その後すぐに綱吉にはっきりと振られた経験から、Aは彼等の間に入ることができなくなっていた。

「つらくて」
「うん」

さっきの告白の現場を見ても足が動かせなかったのは、突然のことに動揺して呆然と立ち尽くしてしまったことだけが理由ではない。＿＿もう2度と傷付きたくない。そんな感情がAを自己防衛に走らせたのだ。

「かなしくて」

咽ぶAを見て、炎真は上手く慰めの言葉が思いつかずに「うん」と小さな相槌を繰り返す。

初めての恋と初めての失恋を同時に経験した炎真は、Aに触れる勇気がなかった。頭を撫でることも、背中を擦ることさえもできず＿＿友達(すきなひと)が泣いているというのに、炎真は関係が変わってしまうことを恐れて寄り添うことだけを選んだ。突き放されるくらいなら、黙って彼女の傍にいたかった。

「まだ、好きなの」

＿＿Aは綱吉が好きだ。
忘れたいと、嫌いになりたいと、他の人を好きになろうとしたことだってある。簡単に忘れられるような軽い恋ではないことを何度も痛感したというのに、こんな目にあってもなお、この気持ちは忘れることはできないと思った。

「……うん」

＿＿炎真はAが好きだ。
彼女への恋心を自覚する前は、Aの隣にいることが楽しかった。楽しいという感情だけだった。なのに、失恋した彼女を慰めるという好機に本人から友達でいることを望まれ、想いを伝えることさえ許されずに失恋してしまった。

「＿＿＿＿こんなに、好きなのに」

そんな2人の想いがちょうど重なった瞬間は、誰に知られることもなく静かに空気に溶けていく。

幼馴染じゃなければよかった。
幼馴染以上の関係になりたくない。
ふと炎真は、以前彼等に相談された贅沢な悩みを思い出していた。

「……炎真」
「ん？」
「私、炎真が友達で本当によかった」

僕は“幼馴染”が羨ましいよ。
“友達”の僕は、これ以上先に進めないのだから。

「＿＿＿うん。ずっと、友達だよ」