【REBORN】最高の幸せ 5【沢田綱吉】 (ページ11)

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211．見たく、なかったページ11

どうしてそんなに優しくしてくれるのだろう。Aは綱吉の周りの人達の温かさを痛感していた。隼人や炎真、京子の笑顔が脳裏をかすめる。

「炎真……」

震えた声で名前を呼んだAは、流れ続ける涙を放置してゆっくりと顔をあげた。隣にいる彼と過去に傷つけてきた隼人を重ねて、これ以上自分の弱みを見せてもいいのか迷う彼女は「頼ってもいいの？」と鼻声で吐息交じりに弱々しく呟く。

炎真はそんなAの様子を見ていることが辛く感じて「大丈夫だよ」と何度目かわからない言葉をかける。その台詞は、ギリギリで保っていた彼女の心のリミッターをいとも簡単に崩してしまった。

くしゃりと眉と目尻を下げた顔を最後に顔を両手で覆ったAは、途切れつつも嗚咽の合間に抑えられなくなった感情を吐き出す。

「見たく、なかった」
「うん」
「胸が痛い」
「うん」
「張り裂けそうで、苦しくて」
「うん」

顔を両手で覆いながらAは咽(むせ)ぶ。初めてこんなに取り乱す彼女を見た炎真は、隣に座るだけで何もできない自分に腹が立っていた。

本音は、このまま正面から強く抱きしめて、泣かないでよって慰めて、僕のことだけ考えてって笑いかけてそのままずっとAの側にいたい。＿＿＿＿だけど、僕はAの“友達”だから。

「好きなの」
「うん」
「綱吉も、京子も、大好きなの」
「うん」
「忘れたいのに」
「……うん」

しゃくり上げて呼吸もままならないAの姿に釣られたのだろうか＿＿彼女の相槌をしているだけだというのに、じんわりと炎真の目にも涙が浮かんだ。辛いのはAなのに僕が泣いてどうするんだ、と自分に言い聞かせた炎真は慌てて上を向き涙を抑える。

＿＿＿＿わかるよ、A。
＿＿＿＿全部わかるようになっちゃった。

張り裂けそうな胸の痛みを堪えながら、目の前の彼女の頭に指先を伸ばす。その瞬間我に返り、慌てて手を引いた。

友達とそうでない者の線引きがあるのなら、それがどこにあるのか教えてほしい。触れたくてたまらないのに、“友達(かんけい)”がそれを許してくれない気がした。

「嫌いに、なりたいのに」
「…………ぅん」
「期待ばっかりで……」

グレーの袖がAの涙で黒く変色する。涙のせいで呼吸が荒い彼女に、炎真はそっと自身の上着を羽織らせた。寒そうに見えたからなのか＿＿少しでも自分を意識してほしかったのか。炎真は次々と襲ってくる初めての感情に戸惑いが隠せなかった。