【REBORN】最高の幸せ 5【沢田綱吉】 (ページ2)

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202．……今は何ともないページ2

Aの怪我も治りかけてきた頃。やけに早く目覚めた炎真は、民宿の居間に座って最近の自分の感情について考えていた。

「……今は何ともない」

胸元を軽く擦りながら考え込むように首をかしげる。炎真の気分が悪くなるのは決まってAが関係していた。二人きりで話してるときは楽しさが勝るのだが、彼女が絡むと自分が自分じゃなくなるような、自分では簡単にコントロールできない感情になって戸惑ってしまう。

小さくため息をつくと「あら、炎真起きたの」と背後から休日だというのに制服姿のアーデルハイトに声をかけられた。挨拶すると「休みの日に早起きなんて珍しいわね」と余計な一言を言われる。

「うん」
「今日は予定は何もないの？」

炎真が頷くと、アーデルハイトは何かを思い出したように「そういえば」と棚の引き出しから何かを取り出した。近づいてきた彼女に二枚の映画のギフトカードを差し出され、炎真は思わず顔をあげる。

「これ……」
「せっかくだから、これで友達と映画でも観に行ってきなさい」

最近、Aが前に観たいと言っていた映画の広告を見かけることが多くなった。アーデルのことだ。僕がテレビで流れるあの映画の予告編を食い入るように観ていたと気付いたのだろう。

「アーデルはいいの？ジュリーと……」と伝えると彼女は「なっなんでジュリーと」とゴニョゴニョ言いながらも炎真の手を取り、強引にカードを握らせた。

「遠慮しなくていいのよ」
「ありがとう。友達のこと誘ってみるよ」

一番に浮かんだAの喜んでくれる顔を想像しながらアーデルにお礼を伝えると、彼女は並中に行くからと出ていってしまった。

手元のカードを眺めて軽く時計を見上げる。Aはまだ寝ているだろうか。流石に、約束もしていない休みの日の朝に自分から会いたいと連絡する勇気はない。その瞬間『起きてる？』と今まさに考えていたはずの彼女からメッセージが届いた。

「……え！？」

起きてる、とすぐに返信すると『電話してもいい？』と返事が来て、気付けば立ち上がって彼女に電話をかけていた。

電話口から聞こえてきたのは「おはよう炎真」と言ういつもの優しい声。ただの挨拶なのに、Aの声を聞いただけで胸が温かくなったような気がする。

「朝早くにごめん。起こした？」
「いや、起きてたよ。何かあったの？」
「……ううん。ただ少し嫌な夢をみて」

「誰かと話したくなったの」と彼女は少し暗い声をして呟いた。