200．……離れたくないよ ページ50
奈々は綱吉を不思議そうに見るものの、特に気にすることなく「今からご飯作るから、呼んだらすぐに来るのよ〜」とフライ返しを片手に階段を降りていった。
綱吉は、小さくため息をつきながら開けっ放しにされた扉を閉める。そのままベッドに戻り、もう一度隠していたお菓子の箱を手に取った。
「……A、今何してるんだろ」
先日、復讐者に襲われたことをあまり言いたくないというAと話した結果、彼女の松葉杖の言い訳を階段から落ちたと説明することに決まった。
本人は顔に出さないようにしてたけど、今日もたまに眉をひそめていた様子から察するにまだ痛みはあったはずだ。あの怪我は決して軽いものではないのだから。
ふと、底の方にある昔の写真が気になり手に取る。それにはAと俺が笑顔で写っていた。海に濡れながらも楽しそうにしている姿を見ていると、懐かしさから頬が緩む。しかし、ふと違和感を感じて目を見開いた。
「あれ？」
そういえば、こんな風に笑ったAを最後に見たのはいつだっただろうか。思い返すと、声をあげて楽しそうに笑うAの姿を随分と見ていない。
＿＿まさか、原因は俺？
幼馴染の俺のお世話に疲れた、とか。
一度そう考えると思考は偏るもので、心当たりがいくつも浮かび段々と血の気が引いていった。
俺が好きだと勘違いしていたAの告白を強引に断ったし、ギクシャクするのが嫌だから、昔の楽しかった時期に戻りたくて、あの頃みたいに抱き締めちゃったり……。
今日だって、Aに年上のイケメン彼氏ができるかもしれないと思ったらモヤモヤが止まらなくて、気付けば話に割り込んでいた。
「やっぱり、俺のせいだ」
俺がAに迷惑ばかりかけてるから、彼女は笑わなくなったのかもしれない。俺はただ、Aの側にいたいだけなのに。俺が幼馴染離れしないと、Aは俺への気持ちが恋愛感情だと誤解したままちゃんとした恋愛すらできないんだ。
「幼馴染離れ、か」
また俺が京子ちゃんに勇気を出して告白して、Aに『俺は一人でももう大丈夫だよ！』って笑って言えたら、Aも俺なんかを気にせずに安心して自分の幸せのことを考えてくれるのかな。
持っていた写真を箱に戻して蓋を閉じようとしたとき、何かが挟まっていることに気付く。手に取ると『大好き綱吉』という文章が最後に書かれた手紙だった。くしゃっと握る手に力が込もって微かに紙が歪む。
「……離れたくないよ、A」
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
