195．そ、そんなのだめだ！ ページ45
すぐに小さな寝息が聞こえてきて、私の机で寝るのかという疑問を慌てて飲み込んだAは、隼人と普通に話せたことに安堵していた。
好きになってくれた人がいつまでも好きでいてくれるとは限らない。そんな当たり前なことを、先日彼に誘いを断られたときに改めて痛感させられた。
私には綱吉の代わりとして誰かを頼りたくなる悪い癖がある。無意識のうちから自分の精神安定のために周りと関わっているのかと思うと、私は自分が信用できない。
「……ごめんね」
小さく呟いて隼人から目をそらした。そんな悪い癖を直したくても、無意識の部分までは直せなくて、どんどん自分が嫌な人間になっている気がする。隼人も炎真も大切な友達なのになぁ……。
「げっ、アンタ達何してんの」
「花」
廊下で話す京子と綱吉を視界にいれないよう読書を始めた瞬間、顔を引きつらせた花が机に近づいてきた。「それ何？」と寝ている隼人を指差す彼女に「眠いんだって」と笑いかけながら、後ろの席についた花の方へ体を向ける。
『それで付き合ってないの？』という視線をひしひしと感じながらも「あとで起こしてって言われただけだよ」と言うと、花は「へぇ」と訝しい表情を浮かべ、何かを思い出したように表情を一変させた。
「A、彼氏作りな！」
「彼氏？」
どうやら彼女は、他校の友人から『先輩が出会いを求めているから彼氏がいない子を紹介してほしい』と相談を受けたようだった。
「最近元気なかったのも、前の男のせいでしょ？」
「別に、元気ないわけじゃ……」
「いーや、暗い顔してる。難しいだろうけど、その人のことはさっさと忘れて、彼氏でも作って次に気持ちを向けな？」
せっかくモテるんだからさ、と続ける花の言葉がズキリと胸に突き刺さる。綱吉を忘れられないまま彼氏を作るということは、また誰かを傷つけることになると思った。
私だって、早く綱吉を忘れて次に進みたいと思ってる。現状から逃げ出して楽になりたい気持ちと、綱吉に対する独占欲と、彼が今後付き合う未来の恋人への嫉妬心。そんな醜い感情で溢れた私を、一体誰が愛してくれるというのだろうか。
「その先輩の写真見たけどなかなかのイケメンだったわよ」
「へぇ」
「Aの連絡先、その人に教えてもいい？」
少し考えさせて、と言葉に出そうとした瞬間のことだった。先程まで廊下にいたはずの綱吉が突然目の前に現れて、思わず目を見開く。
「＿＿そ、そんなのだめだ！」
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
