189．頼ってほしいって思ってるよ ページ39
誰かに名前を呼ばれて「何？」と返事をしようとしたつもりが声にならない。静かだった空間が途端に騒がしくなったような、そんな違和感を感じてすぐに、ぼんやりと意識が浮上してきた気がした。
「じゃあ、ツナ君は帰らないの？」
「俺はギリギリまでここにいるよ」
「わかった。じゃあまた明日！」
「ありがとう！」
ぱちぱち、と無理やり開いた視界いっぱいに映ったのは見たこともない景色。厚い壁を挟んだ先から聞こえてくるような、はっきりと聞こえない誰かの会話。
ここってどこだっけ。見覚えのない景色に思い出せる限りの自分の記憶を辿っていると、フラッシュバックのように“何か”に襲われた光景が頭を過り、突然意識が覚醒する。慌てて飛び起きると腹部に痛みが走り「いたっ！」と声をあげてしまった。
「A！？」
その瞬間、ガラッと扉が勢いよく開いて驚きのあまり肩が跳ねる。痛む腹部を押さえながら顔を上げると「A」と震えた声で涙ぐむ綱吉が立っていた。
「綱吉ここって」どこ、と口を開くと視界が暗くなる。私の大好きな匂いに包まれていることを理解したときには既に抱きしめられていた。綱吉は泣いてる姿なんて、子どもの頃以来私には見せたことがなかったのに、震えた彼の体がまるで涙を流しているように思えて……。
「……綱吉？」
「もう、目を覚まさないんじゃないかって」
本当はずっと怖かったんだ、と背中に回された腕に力を込められて、彼の体を遠ざけようとしていた手を止める。しかし傷口が痛み「綱吉、痛い」と口を開くと、綱吉は慌てて私から離れた。
グイッと目元を袖で拭った彼は「ごめん！」と言いながら、事情は後で話すよとそのまま病室を出ていく。その後、綱吉の呼んできた医師による軽い診察を受けた私は、静かな個室でまた彼と二人きりになっていた。
「……ごめん」
「もう、謝りすぎ」
事情を詳しく話してくれた綱吉の言葉に、マフィアって大変だなと改めて思う。私が2日間も目を覚まさなかったことで、彼の罪悪感が膨れ上がっているようだ。
「私が勝手に目撃して敵の注意を引いただけなんだし、気にする必要ないよ。逆に病院代全額負担してもらって申し訳ないくらいだもん」
彼の不安を消そうと言葉を選んでいると「そうじゃ、ないだろ」と綱吉は俯いたまま呟いた。少し怒っているような気がして固まっていると「俺はダメツナだけど」と聞こえて続きの言葉を待つ。
「……頼ってほしいって思ってるよ」
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作者名：√A | 作成日時：2023年7月6日 19時
