110．ここにいたんだ、京子！ ページ10
「……行っちゃったね。好きな女の子のことだもん、綱吉は必死になって京子のこと追いかけるよ」
「お財布届けようと思ったけど、綱吉に渡せばよかったな」あはは、とリボーン君に笑いかけると彼は「それでいいのか？」と続けた。“これでいい”と心から喜んで言えない自分に腹が立つ。
「綱吉は、京子が好きだから。私の入る隙なんてないんだよ」
「傷つくことを恐れんな、A」
「……でも、怖いよ。幼い頃からの大切な幼馴染に面と向かって好意を無下にされたら、もう今までの関係に戻れなくなる」
私よりもまだ幼いはずのリボーン君の的を得た発言で思わず本音がこぼれる。その場に座り込み泣きそうになりながら「自分も傷つきたくないし、誰のことも傷つけたくないのに……」と答えながら昨日の記憶を思い出した。
隼人に未来での私達の関係を伝えてしまい、そっと彼を見上げると隼人はどこか泣きそうな切ない顔をしていた。何故今言うのか、なんて聞こえてきそうな彼の表情に「私ってずるいね、ごめんね」と伝えると隼人は「……ずりーよ、本当に」と呟いていた。
「子どもが変に考えんな。誰も傷つかねー恋愛なんてあるわけがねぇんだ。恋愛で傷つくことは悪くねー。傷つけば傷つくほどいい女になるゾ」
「死ぬ気になってみろ」そう言われてずっと悩んでいたことが馬鹿らしくなった気がした。勇気をくれた彼の瞳に映る自分の表情が、心なしかスッキリしているように見える。
傷つくことは悪いことじゃない。当たり前のことに気付かされた私は、綱吉が変わってしまうのが怖くて逃げてばかりいたことを思い出した。＿＿恋愛感情を向けて、幼馴染という関係を変えようとしていたのは私だったのに。
「私、行ってくる」
「傷ついたら慰めてやるゾ」
「前も言ってくれたよね。ありがとう、リボーン君」
彼の言葉は、恋愛は一方通行ではないと改めて教えてくれた気がした。走って外へ出ると、目の前の河川敷に京子と2人で並んで座っている綱吉が見えた。距離の近い彼らに胸が張り裂けそうになるが、大声を出すために慌てて息を吸う。
今までだったら、京子と綱吉が2人で仲良くしている所を見るだけで辛くて目をそらしていたと思う。受け入れたくない現実を見たくないとばかりに他人を利用して、視界にいれないようにしてきた。
「ここにいたんだ、京子！」
京子と付き合ってないんだから私にもまだチャンスはあるってことだよね。私は、その日初めて“邪魔”をした。
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
