120．こいつが好きなんで ページ20
「……何してるの？2人とも」
扉の開く音が聞こえた、と頭のどこかでは理解していたものの身体は動かなかった。否、動けなかったの間違いかもしれない。
風邪の熱で頭が回らない上に、全身の倦怠感や熱っぽさから隼人の手の冷たさが気持ちいいことしか考えられなかった私は、聞こえてきた震えた声に振り返ることすらできなかった。
「じ、10代目！？」
「獄寺君、今Aに何しようとしてたの？」
「10代目」と言いながら慌てて私から離れ、その手を背後に回す隼人を見て、綱吉が来たのだとわかった。「これは、その」と動揺したまま俯く隼人を問い詰めるような言葉を投げ掛ける綱吉に、言葉にできないような気持ちが溢れてしまう。
まるで、浮気現場を目撃してしまった夫のような彼の反応に「……なに、それ」と無意識に言葉が漏れていた。私を振ったのは綱吉なのに、どうして期待させるような行動をしてくるのかな。
「……綱吉、どうして来たの？」
「俺は、Aが風邪で倒れたって聞いて、心配で……」
「責任とか感じなくていいからね」
「！？」
流れそうな涙を必死で堪えながら無理やり身体を起こす。ズキンズキンと規則的に響く頭痛に顔を歪めながら、扉の前で立ち尽くしている綱吉に顔を向けた。彼は、見たこともないような表情をしていた。
「あの場所に残ったのは私のわがままなんだよ。自業自得だから」
「……そ、っか」
「だけど、振られたばかりなのに、本人を目の前にして笑えるほど私は大人じゃないよ」
だから、今すぐ私の目の前からいなくなって。期待させるようなこと言わないで。そう心の中で続けながらも、泣きそうになりながら必死で伝えた言葉。
震えた手で隣に立つ隼人の服を握りしめた。すると、その光景を見ていたのか綱吉が「……わかったよ。だけど、1つだけ聞いてもいいかな」と口を開いた。
「……獄寺君と、どんな関係なの？」
誰かの息を飲む音が聞こえた。隼人か自分か綱吉の音かもわからないくらいに動揺が隠せない質問。
やましいことはない、なんて言い切れなかった。何度も抱きしめられたことがある。彼は私が辛いときに寄り添ってくれて、綱吉を想う気持ちは否定せずに、自分の気持ちも教えてくれた優しい人だったから。
「……それは」
「10代目！俺が勝手にAの近くにいるだけっスよ」
こいつが好きなんで。そう言って笑った隼人の言葉に、私は目を見開くことしかできなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 147人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
