119．人の気も知らねーで ページ19
「……ぁ、ごめん！何でもない」
私可笑しいね、と笑って話題を変える。また隼人のことを傷つけるところだった。彼の顔を見るのが怖くなり、そっと寝返りをうつ。
暫く続いた沈黙に耐えられず、早く時間が過ぎることを願っていると「……なぁ」と背後から声をかけられた。ビクッと跳ねた肩を隠すように掛け布団に潜り込む。
「本当に、10代目は断ったのかよ」
「……うん」
「……」
不自然なほどの間を疑問に思い、ゆっくり隼人の方に顔を向けると、彼は何か考え込むように下を向いていて「何でそんなこと訊くの？」という私の問いは聞こえていないようだった。
考えるだけで泣きそうになる綱吉との思い出。どうしよう、辛くてたまらない。未来にきてから……否、綱吉が京子に告白したあの日から、私は醜くて浅ましい情緒不安定な人間だ。
「ん？」
反応のない彼になんとも言えない気持ちになりながら隼人に背を向けると、サラサラと髪の毛が上に掬われた気がして目を見開く。黙って私の髪を触り続ける彼に「それって、面白い？」と呟くと、突然手が止まった。
「サラサラだな」
「生まれつきそーいう髪質なの。隼人もじゃん」
「俺は別に……」
照れたようにボソボソと声の小さくなった隼人の声を、どこか意識の遠くのほうで聞きながら突然襲ってきた頭痛に耐える。そういえば私、風邪をひいてたんだった。
隼人に撫でられているときは頭痛がしなかった気がする、と酸欠でぼーっとした頭で隼人の方に寝返りをうつ。目があった彼は驚いたように固まっていた。
「……手、貸して」
「はァ？手？」
私の言葉に訝しい表情をする彼の手を取り、強引に自身の頭に乗せる。温かい人肌に思わず泣きそうになった。頭を撫でてほしくて、誰かに甘えたくて、力の入っていない彼の手を自分の頭の上で優しく動かす。
落ち着くなぁ……。振られて落ち込んでいたはずの気持ちが少し和らいだ気がして、心が温かくなる。やっぱり頭痛も落ち着いた、と冷静に分析しながら目を瞑っていると、突然彼の手に力がはいった。
「……隼人？」
「本当にずりーよな、てめぇは」
「……」
「人の気も知らねーで」
目を開くと、泣きそうな表情を浮かべた隼人が私の頭から手を下ろし、頬をそっと撫でる。耳に触れた指先が
そんなことを考えていると、ウィーンと機械的な音を立てながら扉の開いた音がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 147人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
