111．聞きたくない…… ページ11
「A、どうしてここに」
「京子がお財布忘れちゃったんでしょ」
「わっ本当だ！」
座って並んでいた彼等のパーソナルスペースが脳裏に焼きついて離れない。どうみても恋人の距離じゃん、なんて邪魔したものの胸は苦しいまま。2人の仲を裂くように間から声をかけたため、私に驚いた京子達は慌てて距離をとっていた。
私の言葉に鞄の中を探した彼女は、驚いたような顔をして「わざわざ届けてくれたんだね！ありがとう」と口を開く。それが皮肉も込めた言い回しのように聞こえて財布を持つ手に力が入った。
「……A」
「綱吉、京子にボイコットのこと聞いた？」
「……うん」
「そうなのA！今、未来で起きてること全部教えてもらってたんだ」
「そっか」
「私は買い物行ってくるから、ツナ君に話してもらったらいいよ！」頑張ってねツナ君、と私からお財布を受け取り、手を振りながらその場をあとにした京子の後ろ姿を眺めて固まる。
邪魔したとはいえ、綱吉と二人きりになるとは想像もしていなかった。予定では京子とそのまま買い物をして帰るつもりだったのに、どうしよう……。京子の後ろ姿を眺める綱吉の表情は読めなくて、不安でたまらなくなる。
「……話があるんだ、A」
「……私、帰ろうかな！綱吉は京子追いかけなよ」
いつもの悪い癖が出てしまった、と自分の言葉を後悔する。そのまま本当に追いかけられたら辛いのは私なのに。しかし、綱吉は彼女を追いかけるのではなく「待ってA、どうして避けるの？」と帰ろうとした私の手を掴んだ。
「……傷つきたくないの」
「……この間のことなんだけど」
「もういいよ、忘れてって言ったでしょ。聞きたくない……」
告白の返事をしてくれようとする綱吉。勢いで告白したり、振られたくないからと避けたり、無理して諦めようとしても、ずっと忘れられなかったこの気持ち。簡単に諦められるほど軽い気持ちじゃなかったんだよ。
聞きたくない、という私のずるい言葉を境に沈黙が続く。彼の顔を見れば泣いてしまいそうで、俯いたまま手首から伝わる綱吉の温もりを感じた。
「……Aは、大切な友達だよ」
「……」
あぁ、終わった。振られてしまった。友達以上に、幼馴染以上に意識していたのは私だけだったんだね。「そっか」わかってはいたけど、本人から言われることがこんなに辛いのか、と思わず自分の声が震える。彼に顔が見られていないのをいいことに溢れた涙は拭わずそのままにした。
112．大丈夫だよ、わかってる→←110．ここにいたんだ、京子！
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作者名：√A | 作成日時：2022年8月22日 13時
