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──────最悪の目覚めだ。
懐かしい奴を、思い出したもんだ。
僕は喉に手を当ててみる。
少し掠っただけで済んだが、戒めのように傷跡が残っている。
少し痛んだ気がした。
古傷が、ってやつか。
布団から抜け出して、コーヒーメーカーをセットしようと思った。
まさしく、彼が好きだったコーヒー。
───匂いは時に、記憶を呼び起こすきっかけとなる。
コーヒーの独特な匂いが部屋中に広がり、懐かしく思った。
僕は苦笑いをして呟いた。
「今頃何してはるかなぁ。」
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依頼。
『最近、なんだか空気がピリッとしてるんです。
よく分からないんですけど、それがウチに来て下さる方々にも影響してはるみたいで…』
どうにかなりますか…?と依頼主の彼女は言う。
ここは、そう、まさに、僕が、彼に、殺されかけたあの神社。
あまりいい思い出はないが、ここの神社は”集まりやすい”場所だから、こうして依頼がやってくる。
「…わかりました。何とかやってみますね。」
前に来たのは1ヶ月前だから、そろそろ結界も切れて来る頃だ。
それにこの神社は基本彼女1人しかいないらしいから、余計に心配だろう。
僕はお札を出した。
「久しぶりやん。」
後ろから声がかけられた。
あぁ、確か────
振り向かずにも、わかる。
柵に座って足を浮かせながらニヤニヤしてるんだろ?
「全く…あんま迷惑かけたらアカンで。」
「別に。」
「そう拗ねへんの。」
彼は僕の方に寄ってきた。
まだ結界を張る前だから、何の支障もなくこちらへやってくる。
「…まだ、傷跡、残ってんのな。」
僕の首元に手を伸ばしたけれど、触れられることは無かった。
少し残念に思ってしまった。
「…大丈夫。痛くないしね。」
着々と結界を張り進めていく僕とは裏腹に、彼は何となく浮かない顔をしていた。
「…君位になればこんなモノ、効かないだろうから…これ以上ここの人に迷惑かけなければ何もしないよ。」
彼は少し口ごもった後、呟いた。、
「…でも、そしたらもう、こぉへんやん。」
「…え?」
僕の手から御札が滑り落ちていった。
目線を合わせられて、
視線を合わせられて、
動けずにいた。
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作者名:Haru | 作成日時:2018年5月19日 15時