安定剤ひろくん (ページ4)

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「はぁ～、ん、落ち着いた」

しばらく首筋に顔を寄せたまま深い深呼吸を繰り返していたが、どうやら満足したらしい

「帰ろっか、ひろ」
でも、まだ少し声のトーンがか弱い

「まだだ」
「え？」

ブランケットの中で向きを変え、藤ヶ谷に向き合うと、肩にかかっていたブランケットを持ち上げ、藤ヶ谷の頭をスッポリ隠すように被せた

ほとんどブランケットの中に隠れた俺たち

今回の舞台のために、少しだけほっそりした頬を両手で包み込む

「ひろみつ？」

藤ヶ谷の問いかけにはシカトして、少し背伸びをすると、チュッ…とキスをした
夜風に晒されて、冷たくなってるお互いの唇

「太輔、自信持て」

「ひろ…」
突然のことで目を開けたまま俺からのキスを受ける

チュ

そして、再び軽く唇を合わせる

「練習は裏切らないから」

チュ…

「死ぬほど努力してたじゃん」

チュッ…

「俺はちゃんと見てたぞ」

風呂に入っても、ベッドの中でもひたすらセリフを叩き込んでた、寝言で言っちゃうくらい

「お前なら大丈夫だ」

チュッ…

「楽しんでこい」
お前の大好きな舞台だろ

「ビビってんじゃねぇぞ、しっかりしろ、俺が心底惚れた藤ヶ谷太輔を見せつけてこい」

チュッ…ん…チュ…

啄むだけの口付けを何度か繰り返し、ゆっくりと顔を見上げると、自信に満ち溢れた瞳が俺を捉える

片方の口角をキュッと上げ

「もっと惚れさせてやるよ」

ゾクゾクする程の甘くて熱い声がしたと思ったら、噛みつくような口付けが降ってきた

「んっ…たい、すけっ…ちゅ…ンっ」

バカ、ここどこだと思ってんだよ
とか思いながららも、両腕を藤ヶ谷の首に巻きつけ、より深く繋がる

「チュ…ん、ひろ…ありがとな、元気でた、チュッ…ちゅ…」

俺のことを安定剤だとお前は言うけど、きっとお前自身の努力と経験が、お前に自信や勇気をくれてるんだぞ

あと数時間後には最初の幕が上がる

そう、あと数時間後に…

「ん？数時間後って…いま何時だ⁈」

急に我に返った俺は唇を離し、藤ヶ谷のしている腕時計を確かめる

サーって血の気が引く音を初めて聞いたかも

「オラ！さっさと帰って風呂入って寝るぞ！」
「さっきまでの甘～いひろちゃんに戻って～涙」

完.