安定剤ひろくん (ページ3)

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ピーポーピーポー

ピーポーピーポー……

ん？

遠くの方から聞こえた救急車のサイレンで、少しずつ意識が戻る

「ん…」
重たいまぶたをゆっくり持ち上げ、何度か瞬き
視界がハッキリしてきたと思ったら、俺の左側の運転席に藤ヶ谷はいなかった

サングラスだけがポツンと置かれてある

あ、俺いつの間にか助手席で寝ちゃってたのか
寝落ちする時には繋いでいた左手がなんだか寂しい

寝てる俺を思って、助手席のシートを少し倒し、「ひろはすぐどこても寝ちゃうから」ってその時のために、常に乗せてる大きめでピンクのモコモコのブランケットを肩までかけてくれてる

３月になったとは言え、夜はまだまだ肌寒い

体を起こし、窓の外に目をやると、どうやらどこかの埠頭？みたいなとこに来たみたい
駐車してる場所からすぐそこに柵があり、柵に両腕をつき海を眺めてる藤ヶ谷の背中

月夜に照らされた、キラキラした水面を見つめて佇む姿は、ドラマのワンシーンの様に美しい

ブランケットを持って車外に出る
「う～～さみぃ～」
「あ、起きた？おいでよ、ひろ」

俺の声に反応し振り返ると、嬉しそうな笑顔になった
近くまでいくと、自分と柵の間のスペースへ来いと手首を軽く握られた

「お前の手めちゃくちゃ冷てぇじゃん、いつからここいんだよ、風邪ひくぞ」
明日からが本番だってのに

ブツブツ言いながらも、柵と藤ヶ谷の間に素直に入り込み
「こうするとあったかいでしょ」
ブランケットを取られたと思ったら、後ろの藤ヶ谷ごとブランケットの中に包まれ、ふんわり抱きしめられる

「おい、誰かに見られたら」
とか言いながらも、俺を包んでくれてる腕をブランケットの中でぎゅっと握る

「大丈夫だって、まわり真っ暗だし」
たしかに、少し離れたところに街灯がぼんやりとあたりを照らしてるぐらいで、俺たちのまわりは藤ヶ谷の愛車とベンチぐらいしかない
ブランケットと藤ヶ谷にすっぽり包まれてる俺に至っては、外から見えてすらいないかもしれない

「ちょっとだけこのままお願い…」
か弱い声で言い、俺の首筋に鼻を擦り寄せてくる

「ひろの匂い、落ち着く…」
「加齢臭？」
「ふふ、それでもいいよ、俺にとっては安定剤になるもん」
そう言ってスーっと大きく息を吸い込む

落ち着く、と言いながら安定剤を欲していると言うことは、今は緊張して不安定な精神なんだろう