淀みに浮かぶ泡沫は…其ノ弐 ページ16
「敦くん、この探偵社にいる間は怪我だけはしちゃ駄目だよ!?」
必死に訴えかける谷崎に、理由が分からず首を傾げる敦。
(そんなにヤバいのか…?)
珈琲を再び淹れてきた上条は、のんびりそんな思考に走っていた。谷崎には悪いが、生憎異能力のおかげで治療というものに縁がないのだ。
与謝野の異能力__“君死給勿”は珍しい治癒能力であるが、瀕死状態でないと発動しないという条件付き。だから、自ら患者を解体してから、その異能力を発動することもある。
ちなみに谷崎が4回もやられたことに、上条が応急措置として再生能力を利用した、という事実が一役買っていた。本人は気づいていないが。
「マズイと思ったらすぐ逃げる。危機察知能力を普段から養っておくこと、だね。――例えば今から数秒後、」
そして乱歩は自業自得とばかりに好き勝手言うのだが、その先に続く言葉を予想した敦以外の社員は、咄嗟に身を隠した。
「おう、敦か。……誰かに買い物付き合って貰おうかと思ったけど、アンタしかいないようだね」
医務室の扉を開け、欠伸交じりにそんなことを言い放った与謝野。それに敦は思わず背後を振り返り、乱歩の言葉を遅れて理解した。
「――行きましたかね?」
『嗚呼、もう昇降機に乗ったようだ』
谷崎と上条の会話を合図に、ぞろぞろと姿を現す一同。
最早、社内の恒例行事である。
上条もまた、自分の席に戻り洋書に目を通す。だが頭では全く別のことを考えていた。
敦には太宰の行方は知らないと言ったが、実際は幾つか心当たりがある。国木田達が言っていた場所も含む他に、もう1つだけ。
(……否、日数的には合うけど、それは多分ないか。だけどなぁ…わざとってことも考えられるだろうし、今更、俺が行ったところでだな…)
唸って悩んで、数分後。
『…よし』
本を閉じて、冷めてしまった珈琲も飲み干し。
しかし、勢いよく立ち上がった上条の姿を、目敏く咎めるのは国木田であった。
「おい、何処に行く?」
『飽きてきたから新しい本を買いに。序に新書もチェックして回ろうと』
「唯でさえ溜まってるんだ!仕事をしろ!!」
『俺の机に、今やるべき書類は1枚も存在していないが?――ま、そういう訳だ』
「いってらっしゃい、上条さん」
谷崎の声にひらひらと手を振って返し、彼は探偵社を出て行った。
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ロット - 更新楽しみにしています。また楽しい展開を待ってます! (2018年3月21日 20時) (レス) id: d561f39b52 (このIDを非表示/違反報告)
ファニー - 更新頑張って下さい!応援しています! (2017年5月5日 23時) (レス) id: ccbe8ec79d (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 匿名さん» このお話にBL表現は出さないつもりです。ただ、念のためということで最初に書いただけですし、前編でも対象にはならなかったのでこのままでいきます。…長々と失礼しました<(_ _)> (2017年3月21日 9時) (レス) id: 4c92540543 (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - BL表現が少しでもあるのなら、フラグを立てましょう。違反の対象となります。 (2017年3月20日 22時) (レス) id: 53d4575912 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朔夜 | 作成日時:2017年3月20日 20時