運命論者の悲しみ…其ノ参 ページ29
敦は、公衆電話の前に立っていた。
ポートマフィアの武闘派部隊の襲撃跡を、先程目の当たりにし、恐怖と不安がまだ胸の中で渦巻いている。
しかし心を決めると、ポケットの中から皺くちゃの“紙”を取り出し、ダイヤルを回した。
次に目が覚めた時、上条が耳にしたのは破壊音。
そして、銃声だった。
二度寝したお蔭か、最初よりは体は大分マシになったようだ。
丁寧に畳まれた状態で置かれた、自分の衣服を手に取りのんびり着替える。
その間にも乱暴な、日常では耳にしない音が響いているが上条は気にしない。
最後に革手袋をはめて、診察室の扉を開ける。廊下を歩き、事務所の扉を開けようとして――、
『……無い』
扉が消えていた。否、外れていた。
「あ!上条さんだ!」
「やっと起きたか…、お前も早く手伝え上条」
最初に気づいたのは賢治。黒服の男達が積み上がった天辺で、銃を珍しげに見ていたところだった。
そして、国木田は老紳士の腕を捻ったまま上条を呼ぶ。
『嫌だ』
「ンなっ!?」
「――辞めろっ!!って、…あれ?」
国木田が声を荒らげようとしたその時、敦が探偵社へ転がり込んで来た。
上条が隣にいるのも気付かず、有り得ない光景を目の当たりにして唖然としている。
「やっと帰ったか小僧!」
敦に国木田の注意が逸れた上条は、その隙に床に散らばった黒服達を跨いで自分の席へ向かう。そして机の抽斗を何やら漁り始めた。
「全く、この忙しい時にフラフラと出歩きおって…貴様も探偵社の一隅、自分に出来ることを考えておけと言っただろう!まあ、お前に出来るのは片付けの手伝いぐらいだろうが?」
賢治に襲撃者を窓から捨てるよう指示を出し、ブツブツと呟きながら狂った予定の修正を手帳にしている国木田。
彼の言葉に、敦はハッと顔を上げる。
ポートマフィアの『黒蜥蜴』。
恐ろしく残酷な連中が、もし探偵社を襲ったら。
皆、自分のせいで死んでしまったら。
最悪の結末を考えていたのに、こんな事があるだろうか。
(僕は、ここに居てもいいんだ…)
その目からは、つぅと涙が溢れて頬を伝っていた。
「はは、ははは…」
「貴様ヘラヘラ笑っている暇があったら…お前、泣いているのか?」
国木田の指摘に、敦は背を向け泣いていないと主張する。
「泣いてるじゃないか」
「だから泣いてませんって!」
「これだからなぁ、全く…最近の若いヤツの典型だ」
国木田のからかうような物言いに、敦は必死に反論していた。
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桐宮 - こういう主人公大好きだねぇ。可愛い…。 (2017年1月4日 20時) (レス) id: a7d473c89c (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - ( ゚д゚)ハッ! ご指摘ありがとうございます。頑張りますね (2016年11月28日 18時) (レス) id: f3c5c75437 (このIDを非表示/違反報告)
お人形 - 羅生門ですよ。 面白いです。更新頑張ってください。 (2016年11月28日 18時) (レス) id: 880e38e28c (このIDを非表示/違反報告)
朔夜(プロフ) - 夏柴さん» 感想ありがとうございます!ご指摘の点は、後で公開する異能力の情報で納得していただけるかと…。これからも楽しんで頂けたら嬉しいです (2016年11月27日 18時) (レス) id: f3c5c75437 (このIDを非表示/違反報告)
夏柴(プロフ) - 面白いです!…………余計かもしれませんが脳細胞は再生できなくてしても記憶が無くなってるそうです。すいません…………変なこと書いて (2016年11月27日 17時) (レス) id: f84fce7cc0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:朔夜 | 作成日時:2016年11月19日 19時