Apricot Fizz

20話 ページ21

扉から私の位置までは遠いはずなのに


不破さんの匂いが通っていった気がした


声の方向へ思わず勢いよく振り返ると、こちらに助走をつけてきていたイブラヒムさんが急ブレーキをかけた










イ「あっっっっぶねぇ！よそ見すんな！」


不「これなに？なんでAちゃんがイブちゃんとやりあってんの〜？」


イ「あぁ、お疲れ様っす。これには事情が」


『……』


叶「あのAさん、大丈夫です？」


明「ふわっちお疲れ様〜！遅かったね！」











昨日最後に見た時よりも服に汚れがついていたり


その綺麗な顔には少し傷があった





事情を知らない人が見ても
あぁ、喧嘩でもしたのかなって思うくらい









日常茶飯事なのか他の人たちは普通に接している


帰ってこないはずないよね、という感じ















不「どした？」













だけど、私は










『不破…さ』








たった一晩でも


あなたが帰ってこないことが怖くてたまらなかった









不「ん、おいで」










その場で立ち尽くしていた私の考えを見透かしたように



子供っぽくはにかんで両手を広げた









弾かれたように動き出した足は止まらなかった













不「ぅおっ…にゃはは〜ただいま」


『私のせいで、ごめんなさい』


不「んーん、Aちゃんのせいじゃないよ」


『でも…怪我してる』


不「大したことないからだいじょーぶ！それより！だめでしょそんなに動いたら。傷痛いっしょ？」


『別に…』










不破さんで頭がいっぱいでわからなかったけど


イブラヒムさんと軽くお手合わせするつもりがヒートアップしてしまって完全に傷に毒


やけに汗かくなぁと思っていたのは


暑いからではなくどうやら冷や汗のようだ












不「怪我人連れ出してなにやってんのかなぁ？」


叶「…」


明「…」


加「…」


不「しゃっちょぉ？」


イ「これには事情が」


不「死にたくないなら黙ってくれる？」


イ「あ、はぃ…」











『私が、お願いしたんです。強くなりたくて』










一瞬、目を見開いたかと思えば


すぐにスっと表情が凪いだ










不「…休むのも、強くなるためには必要だよ。それに」








不「俺が守ってあげるんじゃだめ？」











優しく頭を撫で


おでこに触れるだけの口付けが降りた

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