彼女はもともとⅢ (ページ46)

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うってかわるページ46

『つまり、彼らの事故や怪我は偶然なんかじゃなかった、ってこと？』

「そうなるな。」

飲み物は？そう聞かれて反射的に飲めもしないコーヒーを頼んでしまう。

「お前コーヒー飲めたか？」

『最近飲めるようになったのよ
……砂糖とミルク二つ入れて』

彼の慈悲なのかそう聞いてくれてとても助かる。
コーヒー豆の潰れる悲鳴を聞きながら私はさらに質問をぶつける

『その言い方なら、そう言った事は何度も起きた、という解釈であってるわね

でもそうすると、周りの反応がおかしいわ』

まるでこんな事初めて起きたみたいな。
演技にしては出来た物よ。

「そりゃそうさ。忘れているのだから。」

コーヒー豆の残骸がお湯に沈められる音がする。

残骸は自分の体液とお湯と混ざり合って一つの雫となりぽたぽたと落ちた。

「存在が亡くなってしまう。それ則ち存在を把握してないやつが何を起こそうと分からないのだから姿が見えなくて当然。忘れて当然。
だって認識してないからな。」

『…？？』

概念の話は私は苦手だ。
もう少し馬鹿にもわかりやすいように話して。と頼めば彼はため息をついた。

「おまえは通行人Ａのしたことを全て把握してるか？
歩きながら何をしたかなんて分かるか？後ろで何かされてるの分かるか？」

『いいえ。』

「つまりはそういうことだ。」

彼は今日はよく喋る。
本当の鳥のように、お喋りなカナリアのように

『荘園主がしんだらどうなるの？』

「そうだな、ここがなかったことになる。
ハンターは元々しんでるからな。存在が消えてサバイバーは元の場所であるべき姿に戻るだろう。」

それはつまり、“アイデンティティの消滅”ということになるのだろうか。

少し白っぽいコーヒーが、コーヒー牛乳がめのまえに置かれた。
まだ暖かい。

『それはつまり…』

「そうだな、両親が居た頃に戻る。」

死んだことがなかったことになるな。

ぞっ、と鳥肌が立つ。
こわい。そんなことになってしまったなら私は今度こそ死んでしまうだろう。

『止める方法は？』

「これでも延命し尽くした。
これ以上の延命は不可能だ。」

破滅に向かって進むしか無いのだろうか
いつ消える、戻る恐怖におびえながら

「そこでおまえに提案だ」

荘園主に成るのはどうだ？

『は…？』

悪い話ではないだろう？
彼は私に耳打ちをする

渇いた口から零れたのは

戸惑いと納得と不安と