【歌い手】3人4脚は難しい。

さんじゅうさん ページ35

__すみません、お待たせしました__と声をかけようとするも、皆さんが楽しそうにお話してるのを見て自然と歩んでいた足が止まる。あぁ、忘れていたんじゃないのか、A。


天月さんと関わりすぎてしまったから、錯覚していたんだ。私はキラキラ輝く主人公の友達役だって。そう錯覚していた。本来…いや、本来も何も私はただの脇役だ。クラスメートA。Aすらも恐れ多い、そんな役割を忘れてしまっていた。


天月さんと過ごした日々があまりにも楽しすぎたから。あまりにもキラキラしているから。やっぱりあの人は危険だ。生まれ持った主人公気質のあの人と一緒にいると、私までもが主人公に近い存在なのではないかと錯覚してしまう。そんなことありえないのに。


「あれ、Aいたの。言ってくれたら良かったのに」


ボーッと突っ立っていると、らんちゃんが私の名を呼んだ。その声にハッとし、__すみません、__と言ってらんちゃんの元へ駆け足で向かう。


「別に謝らなくても…」


そう言ったらんちゃんの顔は何だか不貞腐れてるように見えた。んん、なんだか今日のらんちゃん難しいなぁ…


「A、スタジオ。練習行くんでしょ？」


くいっと顎で天月さんを指すらんちゃんにはは、と苦笑い。早く天月さんに挨拶して来いってことか。


「ちょっと行ってきますね」


ペコりとらんちゃんにお辞儀をして、お友達と喋っている天月さんに駆け寄る。

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