第27話『雪だるま』 ページ28
『また負けちゃった〜』
少しだけ胸がモヤモヤした。
でもそれは負けたのが理由じゃない。
本当は勝ち負けなんてどうでもよかった。
ただ、縁下くんといる時間が好きで、
縁下くんとおしゃべりするのが好きで、
縁下くんが、好きで、
二学期が終わってしまうという事実を前にして、もう少しだけでもって繋ぎ止めたくて
点数勝負を口実に引き止めた。
時間の流れの速さに気づいた時、どうしても終わりを見てしまう。私の悪い癖だった。
｢でもAさんも俺も、前よりまた点数あがってるよ｣
そうだね、と笑ってみせる。
『私、縁下くんに本当にありがとうって思ってるよ』
｢勉強教えたこと？それなら俺だって教科によっては教えてもらったし、お互い様だよ｣
私にとってはね、点数が上がったとかそんな些細な変化じゃないんだよ。
『勉強だけじゃない、私の知らなかったことたくさん教えてもらったから。』
こんな言い方しても分からないよね
案の定きょとんとしている縁下くんに1つの紙袋を差し出す。
『これ、いつものお礼』
縁下くんのために選んだマフラー。
たくさん迷って、買ったあともどう渡そうかたくさん悩んだ。
彼女でもないのに渡していいのかな、とか。
｢あの、これ俺からも｣
びっくりだなあ
『まさか2人とも同じもの選んじゃうなんてね』
私が選んだものとは違い、可愛らしいマフラー。
お互いに渡したマフラーを着け、似合ってるよなんていいなら笑いあった。
どうしようもなく嬉しい。
さっきまでのモヤモヤなんかとっくに吹き飛んで、少しだけ宙に浮いてるようなふわふわした感覚。
『外、出てみない？』
縁下くんを連れ出して、校庭に出た。
｢すごい、もうこんなに降ってる｣
『ね、あそこに雪だるまあるよ！誰が作ったんだろう』
先生だったりして、とか思うと思わず笑ってしまった。
静かに、ゆっくりと時間が流れていく。
『あのね、私、"好き"ってなにかわかった気がする』
縁下くんのおかげ、って言って微笑んだ。
あのプール清掃の日から、たくさん待たせてしまった。
やっと答えが出せたよ。
まだ、間に合ってるかな。
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作者名：メチルオレンジ | 作成日時：2020年5月26日 12時
