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夜の自由時間
一也にちょっと歩こうと誘われた
春の夜風はまだ冷たい
暖かくしてこいよって一旦部屋に返された
「行こう」
「待って
土地勘ないんだから置いてかないで」
そう言っても一也の歩くスピードは変わらなくてズンズン先に進んでいく
会話もないし、歩く一也を追いかけるのに必死だった
だから…どこに向かっているかなんて、気にする余裕なんてなくて、気づいたら甲子園球場の前にいた
「う、わぁ〜〜」
初めて見る甲子園の正門
夜の甲子園は静まり返っててそれはそれで圧巻だった
風物詩の蔦はまだ青々と茂っていない
これから夏に向けて育っていく
これが甲子園
春の甲子園なんだ
駅からの道には桜の木がたくさんあった
まだ花は咲いてないけど、決勝戦に合わせたように満開になると何かで読んだことがある
今年は甲子園で満開の桜見られるかな
見れたらいいな
テレビで何度も見た場所
外から眺めているだけでも心が洗われる
中に入ったらどうなっちゃうんだろう…
横にいる一也を見上げるとドヤ顔でこっちを見てる
ドヤ顔から一転、凄く真剣な顔つきになった
「ようやくAを甲子園に連れてくる事が出来た
やっと言えるよ」
肩に手が置かれて一也と向き合う
「Aが好きだ
これからは彼女として俺の隣にいて欲しい」
普段の軽口はどこいったの？
びっくりして驚いて、何も返せなかった
「なんとか言えよ…なにこの間…俺振られるの？」
「一也…ちょっと話したいことある
あっち行こ」
ベンチを指さして、腰をおろした
「一也、私のお父さん覚えてる？」
「いや、ほとんど記憶ない」
私も写真でしか知らない
父と母は大恋愛の末の結婚ですぐに私ができたみたい
子育てに奮起してる母を放ったらかしにして父は外に女を作った
夜中に結婚する前の付き合ってた時の若かりし頃写真を見かえして泣いてる母をよく見かけた
父のせいだと言いたくはないけど、好きって感情がよくわからないのは多分それが原因なのかもしれないってよく思うようになった
母に隠れて見た写真は、私には父の方が母を愛しているように見えた
写真越しでも母のことが好きだって伝わってくるそんな写真
捨てられない母の気持ちもわからなくはない
なのに、なんで？こんなに好きだった人の事簡単に裏切れちゃうの？
好きって気持ちは季節みたいに移ろって変わっていくんだと思うようになってた
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作者名：彩葉 | 作成日時：2021年6月17日 20時
