OVER, advance #3 (ページ19)

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●将来/去来ページ19

一通り笑ったあと、気が付いた。
いつまでも笑っているのは私だけで。彼は……そんな私をただ見つめていて。
私は一気に恥ずかしくなって、今度は黙り込んだ。

そして彼は隣で食べ終え、箸をそっと置いて。
覗き込んでくる瞳に、また柔らかさが増した気がした。

「美味かったよ。ありがとう」
「……うん」
「また作ってくれる？」
「……こんなもので良かったら」
「今度は使ってよ。足りないもんあったら揃えとくし？」

キッチンを指差して首を傾ける仕草が、まるで雑誌から飛び出したようで。
そんな風におねだりされたら、すぐにでも何か作りたくなる……

「でも……あまり期待しないで？」
「無理。既に期待しかしてない」
「どんなものが好きなの？苦手なものは？」
「んー……まぁ、“おいおい”、教えるわ」

時の経過をあえて楽しもうとしているような言い方だった。
昨日、私が何を好きなのかひとつずつ時間をかけて教えてと言った、それと同じ……

「なんかさ。想像しちゃったんだよね……未来的な」
「未来？」
「優しい、イイお母さんになるんだろうなーとか。厳しい時はちゃんと厳しくて、」
「……」
「あっ？別に深い意味は無くて！まだ！……まだって……何言っちゃってんだ俺……あーもー」

自分の髪をぐしゃぐしゃ弄って。まるで言葉を繋げられない分で、私を抱き寄せたみたい。

私も何も言えない分で、彼に身体を預けきった。

「……気が早かったな、さすがに」
「……ふふ」
「Aのお母さんは？どんな人なの」
「……色々と残念な人……かな」
「残念？天然、的な？」

私の母はね。幸せになれなかったことを嘆き続けている人。
自分の狭い価値観を、私に押し付けるだけの人。
私が……最も、なりたくない人……。

「ん。そんな感じ。で……父は早くに……失ったの」
「え……そうなの」
「遠い話よ、気にしないで？」
「じゃあお母さんはずっと一人で？大変だったろうな」
「……遠い話」

本当に死んじゃっていたら？
母は……私は……楽だったのかな。

お父さんなんて、って反抗してみたかった。
身長は、どれだけ追い付いた？

パパの笑顔。大きな手と背中……そんな記憶しか、残っていない。

「……大丈夫だよ。俺がいるから」
「……」
「って、何の大丈夫だ。……な？」
「……ありがとう」

何をしても。何を言っても。
あなたは私との幸せを見出そうと浮かれているようで……

それは嬉しくもあって……どこか、冷める気がした。