○期待/待機 ページ13
こんなにも仕事終わりが待ち遠しかったのは、いつぶりだろう。
マジでもう……こんな感覚が味わえるなんて思わなかったけど。
「あ。やべぇ……」
待ち合わせたAが近づいてくるところを見て、急に思い出した。
部屋、すげぇ汚いかも……どうしよ。
「ごめんな遅くなって」
「いいえ。お疲れ様……です」
「そいつ乗せていいよ、後ろ」
「はい」
少しよそよそしい？今、微笑んだ？つーか、恰好もなんか雰囲気違う？
暗くて表情がよく見えないAは、素早くシューの入ったキャリーを後部座席に乗せて。
……ん？
「なんでお前もソコで落ち着くの」
「あ、え？っと。不安になるから」
「大丈夫だろ、こんな時間だし。お前がそんなこと気にしなくてもいいよ」
「え？でもこの子、車に乗ってお出かけするの初めてなので」
「あ、あぁ……そっちね」
「あ！そう、そうだ……ごめんなさい」
「何が？ん、まぁいいや。出発しますよー」
やべぇ。さっきより、もっとよそよそしくなった気がする。
随分と行儀良く背筋まで伸ばして後部座席におさまってるし。
シューがごそごそと動いてるのが音で分かって。Aがシー、と小さく言った。
「なんでそんな緊張してんの？」
「……今さらながら、あらためて思ったら……いいのかなって。あなたみたいな人の車に」
「あなたみたいって。やっぱり……さっきの俺の発言のせい？まぁ、気にすんな。いや、気にして欲しいけど……過剰に気にすんな」
そこで、ちょっと無理に片手をAのほうに伸ばした。
こんな時に俺の職業がどうとかで躊躇われるのは御免だと思った。
だから……触れてくるかどうか、ちょっとした駆けだったけど。
「ん……じゃ、気にしなーい」
随分と幼げにクスッと言ったそれが、意外過ぎて。可愛過ぎて。
そっと俺の指に触れたその指をもっと、自分のほうに引き寄せたかった。
けど……無理がある、この距離感。あー、くっそ。
「翔？お食事は済んだ？」
「あぁ、実はどうしようかなと思ってたんだけど。お前は？」
「良かったら……簡単なものだけど」
「え！作ってくれんの？」
「というかね、あの、キッチンのことも分からなかったし……作ってきたの……お弁当風。だから良かったら、」
「……マジかよ」
実は、期待してた。
朝にメシの話をしたくらいだから、作ってくれないかなー……とか。
でも俺から言うのも微妙だなと迷って結局言えずじまいで。
あー……どうしよ。嬉し過ぎる。
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年6月14日 22時
