●増える/減る ページ11
ひとつ新しい欲を持つことを自分に許してしまうと、結局それだけで済まないみたい。
例えば、嘘をつくために嘘を重ねるのと同じで。
幸せを求めるための幸せを、どんどん求めてしまうのかも……
翔？だって、私はもう……そんなキスだけじゃ、本当に足りないの。
「ぉ、ぃ、A、」
「だって……太陽は昇った」
「や、そーね、そうなんだけど。さ……ごめん」
性急に彼の身体を求める私の指を握って。
ごめんと呟く声は、本当にその先を許してくれない様子だったから、落胆した。
けれどそんな私の顔を見て、彼は焦って付け足してくれた。
「違ぇのよ、実はちょっとね、時間が無い。寝心地が良過ぎた……」
「え！大変、何か食べる？急いで用意するわ」
「あぁ、いい。その時間も無い……ハハッ」
笑ってはいるけど、私よりもベッドから出るのは早かった。
そわそわとするしか無い私の前で慌ただしく準備する彼に、せめてコーヒーでもと思い付いたのも、遅過ぎたみたい。
彼はバタバタしながらもキッチンに来て、マグカップを用意する私を包み込んだ。
「また今度、ゆっくり飲ませて？……メシも」
「……うん」
「なぁ。俺んち来ない？」
「え。いつ？」
「いつでも？……今夜でも？」
「今日、」
「あ！や、無理ならいい！違ぇんだって。ただ……最初の料理とかさ、ゆっくり味わいたいし。こんなバタバタでいただくのは嫌だっつーか！」
まるで突然誘ったことに自分が焦っているようで、彼は慌てたけど。
そう……ね。初めてになるんだ、全て。私たちの……
今さらと思いそうなイメージがあるのに、そういう所にこだわるんだと知れて。
それはこそばゆい感覚で。私は、抱きしめてくれている腕にギュッと縋った。
「無理じゃないんだけど。シューが……あまり独りにさせるのも、」
「アレは？なんか犬運ぶやつ。ねぇの？連れて来たら？」
「だけどそれじゃ、え、あなたも何か飼ってるの？」
「いねぇけど。何なら正直、俺的には獣類とか入室御断りだけど。まぁ……背に腹は代えられないっつーか……なぁ！起きたか〜！別にお前が嫌いなんじゃねーぞ〜」
タイミングよく足元に来たシューをワシャワシャ撫でる姿を見れば、もちろん嫌っているようになんて見えない。
「お前のご主人様と一緒に居たいからさぁ。しょうがねーからお前も来ていいぞ〜」
一緒に居たい。
シューじゃなくて私に言って？
なんて思ってしまったの。
ほら、またひとつ欲が増える……
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作者名：みつな
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年6月14日 22時
