【友達へ】 (ページ19)

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『なに、この鏡…。』

知らないフリをした。
何だかそういうフリをした方がいい気がした。

マ「ここ。前に立ってみろ。」

目も合わさずに鏡の目の前を指さしてそう言った。

『な、なんで…？』

何も知らない人ならすぐに鏡の前に立っただろうか。
いや、嫌な奴の言うことは信用できないから何か罠があるはずだと疑ってホイホイ言うことなんて聞かないだろう。たぶん。

色んな考えを巡らせているうちにマルフォイが鏡の前に立ってみせた。

するとやっぱり、この前のハリーのときと同じく
鏡には映るはずのないマルフォイ以外の姿が映された。

マ「僕の父上だ。」

『へ、へぇ…。』

厳しそうなお父さん。顔つきも、立ち姿も、全部。

マ「次はお前だ。」

さっきと同じように強引に腕を引かれて鏡の前に引っ張られる。
加減というものを知らないらしい。

『えっ、ちょ、勝手に見せといて何！絶対やだ！』

親とか、ペットとか、そういうのが映らない私は。
鏡の目の前に立ってしまったら、全てがバレる気がして。何かが終わる気がして。うん、人生が。

『ぜっっったいヤダ――ｺﾂｺﾂｺﾂ…

マ・ナマエ『…！？』

誰かが歩いてくる音がした。
2人とも反射的に、いや本能的に廊下の柱の後ろに隠れた。

『ちょっと…！あんまり押さないでよ…！』

マ「仕方ないだろ…！お前だけ放り出してやろうか…！」

『なんなの…っ。』

小声で言い合いをしていたら足音の主はもうすぐそこまで来ていた。

(せ、先生…？)

鏡の前に立ったのは、他でもない、スネイプ先生だった。

マ「…。」

『…。』

マルフォイが後ろにいるのも忘れて、先生の大切な人が映し出されるその鏡をひたすら見つめた。

先生は最初、少し俯きながら鏡の前に立った。
気持ちを沈めるように、1つ息を吐いて。

ゆっくり顔をあげる。

その仕草1つ1つ、自分をキュンキュンさせるには充分だった。きっと今、自分の顔は茹でダコ状態だろう。

ハッとしたように鏡の方に視線を戻す。

『…――っ！』

鳥肌が立った。
驚きと、ほんの少しの嫉妬。

鏡に映し出された人物は紛れもない、この前ハリーが見せてくれたあの綺麗な女性だった。

ハリーの母親。

ああ、何て残酷な。
好きな人の好きな人はこの世にいない人。
友達の母親。

ス「リリー…。」

愛おしそうに鏡に触れる先生をこれ以上見ていられかった。

『…っっ。』

私は、中腰だった体勢をやめてその場にしゃがみ込んで静かに泣いた。