☆★ ページ11
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真剣な眼差しで言われた一言に思考が追いつかないまま、じゃあまた明日！と声を張った杏寿郎に、私は
手を振るのが精一杯だった。
翌日もその翌日も雨が続き、客足はパタリと減った。
あれからタイミングが合わず、杏寿郎とは顔すら合わせていなかった。
そのままお盆に入り、予報通りの台風がやって来たため、海の家でのバイトは数日間休みになった。
台風が去ったのは、8月16日の午後だった。
巻き上げるような風だけを残して、からりと晴れた空は、この数日間を取り戻すかのように青空を見せた。
暇を持て余した私は、少し陽が落ちかけた頃に海へと足を運んだ。
サンダルを脱いで、波打ち際を歩く。
引いた波の跡の中に綺麗な貝殻を見つけて、私はしゃがんで手を伸ばした。
不意に海の方を見れば、今までより大きな波が、青い壁を作って迫っていた。
『A…！！』
勢いよく手を引かれた反動でぶつかったのは、杏寿郎の胸板だった。
『…びっくりした……』
「それはこっちの台詞だ。」
見上げれば、少し怒ったように低い声を出した杏寿郎が、私の手を握った。
「まだ波が高いんだ。安易に近づいてはいけない。」
諭すように言った杏寿郎の表情からは、怒りではなく
安堵感が伝わってきた。
『ごめん…』
しゅん、とした私の手を握り直して、杏寿郎は微笑んだ。
「俺が居るんだ、もう安心だろう？」
『うん。』
夕陽に照らされた杏寿郎の姿が眩しい。
「Aは変わらないな。
あの日と同じじゃないか。」
『本当、そうだね…』
杏寿郎が言う“あの日”のことは、よく憶えている。
小学1年生だった頃のこの日の話だ。
友達と夏休みのプールの帰りに海に寄り道をした時だった。
水着も持っていることだし、少し海で遊んで帰ろうとして、高波に攫われた私は、海に溺れた。
その後の記憶は、必死に私の名前を呼ぶ杏寿郎の声と心配そうに見守る槇寿郎さんと瑠火さんの顔だ。
溺れた私を見て、海の家に助けを求めた友達が杏寿郎に声を掛けると、脇目も振らずに海へ飛び込んで、私を助けてくれたらしい。
一瞬意識を失った私に、杏寿郎が人工呼吸を施してくれたお陰で今の私は存在している。
そう、私の記憶が再開したのは、厳密には杏寿郎と
重なった唇の感触からだった。
それなのに、幼馴染によって不意に奪われたファーストキスが恥ずかしくて、私は1ヶ月間杏寿郎と口をきくことができなかった。
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ゆきの(プロフ) - 伊黒小芭内めちゃくちゃよかったです！！凄い推してるのに，あんまり作品がないので．．．私，伊黒さんと宇髄さんと実弥さん好きなので，とても面白かったです！！！ (2022年2月28日 0時) (
レス) @page30 id: 979384fcc7 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - あさひゆうひさん» あさひちゃんも読みに来てくれてありがとなァ！！ちゃんと甘く書けてたのか不安だったから、そう言ってもらえて嬉しい！！ルビは最近1番気をつけてる(笑)一緒にお祝い出来て私も嬉しい❤️あさひちゃんのお話も最高だったゾ！！！！ (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» 早速読みに来てくれてありがとう！ハピエンを匂わせたままにしてたので、このタイミングでしっかり伏線回収させて頂きましたァ！！この実弥くんだから、夢主さんはやっと過去を清算できたのかな、と思ったり…。ひよちゃんのコメント力高すぎていつも文字数足りない(笑) (2021年11月29日 8時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
あさひゆうひ(プロフ) - りりちゃん…！続きをありがとう！甘い!!!実弥さんの甘い言葉の数々にきゅん…素敵な誕生日のお話ありがとう!!!そして、ルビありがとう！助かります！（土下座）一緒に実弥さんのお誕生日お祝い出来てとっても嬉しいです♡ (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: 9c7376e839 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - りりちゃん、実弥くんの続きを読ませてくれて本当にありがとう!! こうなってくれると良いな、と思いながらの完結だったので、素直に嬉しいです。過去の残像を払い除けられたのは、実弥くんだからか……お誕生日おめでとうございます…!! (2021年11月29日 0時) (レス) @page28 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羽糸 | 作成日時：2021年8月7日 20時
