六勝目 ページ23
「ヘコ、どうしたんだ!?」
「な、何でもありませんよ…
ほら、部室に戻りましょう?」
可笑しい。
おれが感情を出すことはないはずだ。
何でだ?涙が止まらない。
ボクも…この液体は、止めることができません。
嗚呼、狂っている。
この世界が、狂っている。
桜野凹という、人間の中という、小さい世界が。
三人…いや、四人の人格が小さい体にすっぽりと収まっている。
一人目は”おれ”。
パーティーのボスであった人物だ。
最近は外に出る機会がなくてイライラしている。
二人目は”ボク”。
基本的に前面に出ている性格。
演劇部であり美術部であり学年二位の高スペック。
三人目は”私”。
桜野凹のもとの性格。
母親の言いつけを破る勇気がなく、ずっと引きこもっている。
そして四人目は”匿名真一郎”。
今目の前にいる彼の(血は繋がっていないが)父親だ。
【変身】能力を持った、元の体の持ち主である。
…いやいや、誰に説明しているんだ。
「…ヘコ?」
「あ、はい!」
「大丈夫か?
なんだか、考え事をしているようだったが…」
「あぁ、ごめんなさい!
何でもありませんよ、大丈夫です!」
「…なら、いいけど」
彼は長くなった髪を風にたなびかせる。
それが邪魔なのだろう、髪を耳にかけた。
赤い髪が、水色の目が。
彼のすべてが、私を魅了していくようだった。
「凹ちゃんせんぱーい!」
「あ、薫ちゃん!」
「チクバイ」
「見てましたよ見てましたよー!
何で公共のグラウンドでハグしてるんですかねー!」
「元気だな、オマエ」
呆れたようにため息を吐く。
彼としては女性を愛しているのに男性を愛していると思われているのだ。
嫌がる気持ちも、まぁ分からないでもない。
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作者名:future*show | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月30日 13時