『九人確かにここに、いるんです。』2

一生、／青 ページ30

「おはよう…って誰もいねえじゃん」


とあるバラエティ番組の収録。
ゲストとして呼んでいただいて、メンバーは9人全員ではなく、俺の他に舘さんと照がいる。

話を頂いた時はなんともまあ珍しいメンツを呼んだなと思いつつ、この3人だけでバラエティに参加するのは少し緊張している。
そのせいか家を出るのが早く、楽屋にはまだ誰の姿も無かった。

少ない荷物を置いてソファーに座る。
ヘアセットやメイクの時間まではまだ余裕があるため、暇つぶしに某SNSを開いて動画を眺めることにした。

しばらくするとガチャリという音と共に楽屋内へと人が入ってくる音がした。
ゆっくりと顔を上げるとそこには照の姿があって、俺の存在に気づいた彼はマスクを外しながら挨拶をしてくれた。


岩「おはよ、翔太早くね？」
「はよ。なんか家出んの早かった」
岩「そっか。珍しいね、時間配分間違えんの」


いつもだったら30分前とか決まった時間に来るのに。
そう続ける照に「緊張してて…」などは俺のプライド的にもちろん言えず、なんとなく濁した。

そんな俺を気にはなっているのか少し訝しげな目線を送ってくる照を無視し、SNSを眺め続ける。
俺は聞かれても答える気は無いし、照もたぶんそれを分かっているから特に話しかけてくることも無かった。

向かい側のソファーに座った照はテーブルの上の雑誌を漁っている。
気になるものでも見つけたのか、一冊手に取りそのまま読み始めた。

2人言葉も交わさず個人の時間を過ごしていると、ゴロゴロと何やら怪しげな音が響いてきた。
嫌な予感がしながら窓の外を見てみると、空はどんより曇っていて、今にも雨が降りそうな感じだ。


岩「今日天気荒れるかもって言ってたよ」
「マジかよ…天気予報見てくんの忘れた」
岩「早起きしたんじゃなかったの？(笑)」
「俺朝あんまテレビつけねえもん」


くっそー、これならテレビ見る習慣つければよかった、なんて遅すぎる後悔をしながら、先ほどから響く雷の音に耳を傾ける。
いや、別に傾ける必要は無いんだけど。つか傾けたって良いこと無いし、逆に傾けんなよ俺。

ぶんぶんと頭を振って、意識をスマホに集中させる。
さっきより少し速くなった鼓動には意識的に無視をして。

大丈夫、だってここ局だぞ。
俺が想像してるようなことはそんな簡単に起こらない。大丈夫。


岩「…翔太？」
「なに」
岩「なんか顔色悪くね？」
「…大丈夫」


あの頃とは環境も違うんだから。

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