一人、またひとり ページ5
.
.
ここまで来ると、俺もおかしいと感じ始めた。
こんなに、容易に人が姿を消すものなのだろうか？
(まさか……)
時折、こんなことを聞く。組織に属する人間が、その長によって次々と処分されていくというおぞましい話だ。
隊長の顔が浮かんだ。ぞ、と背筋に冷たいものが走る。
そんなはずない。そんなはず、絶対に……
(確かめなければ……)
確かめなければ、俺の気が収まらない。
隊長の元へ行こうと足を踏み出した矢先。大きな影が俺の前に立ち塞がった。
「どこへ行く気だ？春木。」
「……柳さん……」
すべてを見通しているのだろうか。柳さんは、俺の前から動かない。
……この人には、話してもいいのだろうか。
あの切原が懐くくらいだ。優しくて……信頼のできる人、なんだろう。
「……あの、柳さん。」
「何だ？」
「教えてくれませんか。……切原たちが消えた、本当のわけ。」
「消えた？大袈裟だな。精市も言っていただろう。出征した、と……」
「それにしては頻度が高すぎます！……俺……まさかとは思うんですが……時々思うんです。切原たちは……その……幸村隊長が、」
「それ以上言うな。」
開いた目が俺を見下ろした。驚いて、思わず口をつぐむ。
「お前が言いたいことは、よくわかった。……だが、そのことを精市には言うな。絶対だ。」
「……はい……」
「俺は罰しようとは思わない。……だが、真実を話そうとも、思わない。」
「……」
「春木。」
柳さんが、俺を呼んだ。
「いずれ、お前にも真実がわかる。」
「……え？」
「生きろ。春木。」
生きろ、とは？
それは一体、どんな意味で？
聞き返す前に、柳さんは去っていってしまった。
翌日。隊の中に、柳さんの姿はなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 17人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：幻想曲 | 作者ホームページ：http://uranai.amanoboru
作成日時：2016年3月1日 20時
