*29 ページ29
「あら、Aどうしたの」
泣き顔の私を見るなり母は聞いた。
「あのね、お母さん。私もうここに戻ってこれないかもしれない」
「……どういう、意味?ちゃんと説明して」
もちろんそのつもりで今話している。
私は今までのことをすべて話した。コンパクトを見せながら。
「信じられない話ね……」
「いいよ、信じられなくても仕方ないもん」
少し間を置いた後、私は自分の意思をはっきりと告げる。
「お母さん、私はやっぱりもう1度万里くんに会いたい。もちろんこの世界が嫌とかそうじゃなくて……大好きな万里くんと複雑な関係のまま終わりたくない。お願い、もう1度あの世界へ行かせて」
お母さんはすごく迷っていた。当たり前だ。実の娘が別の世界へ行って帰ってこないと言っているのだから。
「……そんなの、はいそうですか、なんて言えないわ。万里くん?がどんな人かも知らないし」
「……」
「……でも、あなたの幸せがそこにあるなら、お母さんは応援するわ」
俯かせていた顔を上げた。
「お母さんっ……」
「絶対、幸せになりなさいよ」
私はお母さんに抱きついた。するとお母さんは近くの棚の引き出しから、小さな”何か”を取り出した。
「指輪、よ。お父さんとお母さんの。柊家はね、代々母親からこの指輪を受け継いでるの。万里くんとこれを付けて、素敵なドレスを着てね」
「うん、うんっ……」
私は頷くことしか出来なかった。
「お母さん、本当にありがとう。大好き」
「行ってらっしゃい」
トリップが事実と示すように、私はお母さんの目の前でトリップした。
……ありがとう、お母さん――待っててね、万里くん。
178人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「トリップ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
めぇたそ*(プロフ) - とても素敵でおもしろい作品でした!万里推しじゃないのに心奪われました。他の作品作りも頑張ってください!因みに質問ですが、そのコンパクト、どこにあります?やっぱりアニメイドらへんにありますかね?() (2019年9月26日 17時) (レス) id: 7e044f69cb (このIDを非表示/違反報告)
柚子(プロフ) - ゆにさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!楽しんでいただけたようでしたら何よりです(^^)他の作品もぜひよろしくお願いします! (2018年5月26日 22時) (レス) id: 1681e727f2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆに(プロフ) - とても素敵な作品で、楽しく読ませていただきました!後半では思わず涙が溢れてしまいました(´;ω;`) (2018年5月26日 0時) (レス) id: 6d746fddb3 (このIDを非表示/違反報告)
柚子は多忙で更新停止中(プロフ) - りるはさん» ありがとうございます!そう仰って頂けるととても嬉しいです。他の作品も是非よろしくお願いします。 (2017年12月27日 12時) (レス) id: 0f9b565f22 (このIDを非表示/違反報告)
りるは - 素敵な作品ありがとうございました!!とても面白かったです。 (2017年12月27日 11時) (レス) id: aa91e6f5aa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柚子 | 作成日時:2017年5月18日 21時