【A3!】オタク少女はシンデレラ【トリップ】

＊28 ページ28

コンパクトの説明書を読み返した。

”自分の行きたい作品を呟き真ん中の宝石を転がすように触れるだけ。”

”ただしルールは守ること。”

”1.時刻はいくら長くても午前零時まで”

”2.零時になったら強制的に帰す。その際見られてはならない”

”3.もしも永遠にその場にいたいというのなら、その世界の誰かと結ばれること
※但し、元の世界へ帰れなくなっても責任は取れない”

私は万里くんと結ばれたはずなのに普通に戻ってきてしまった。
結ばれるの基準がわからない。キスでもしろと?……分からない。だってするときにはきっと時刻が零時になったはずだ。
しかし……見られてしまった。消える姿を。
見られてはならない、と書いてあるがそれによってどうなるとは書いていない。ただ、大体は予想できた。

「会えなくなる、かなぁ」


――次の日から、トリップ出来なくなった。
その翌日も、さらに次の日も。トリップ出来ることは無かった。
今日もまた、分かりきった事実を胸にもう1度真ん中の宝石を転がす。
――何も、変わらない。

自然と、涙が溢れた。万里くんの笑顔が脳裏に焼き付いて離れない。最後の驚いた表情も忘れられない。
短い間ではあったがカンパニーのみんなとの思い出が走馬灯のように浮かぶ。
ぼたぼたと目のふちから零れた雫は、宝石に垂れた。すると、コンパクトがキラキラと光出した。

「な、何……?」
涙は流れることをやめ、目元に留まった。
しばらく待っていると、鏡のところに綺麗な白い文字が浮かび上がった。どういう仕組みか分からないが、浮かび終わるのを懸命に待つ。

”お前の望みはなんだ”

そんなの……。
「決まってるじゃない、もう1度万里くんに会いたい」
悲しさよりコンパクトに対する苛立ちが勝った。

”それは心からの願いか”
”もう2度と戻れないとしても、お前はそれを望むか”

2度と戻れない、というのはこの世界に戻ってこれないということだろうか。
ふと、お母さんの優しい笑みが脳裏を過った。でも。それでも。

「……会いたい。この世界の全てを捨ててでも、万里くんに会いたい」

コンパクトはその言葉を深く理解するかのように、その輝きを少し暗くした、ように感じた。

”なら、自由にするがいい。全ての準備を整えたらいつもと同じように、トリップしなさい。”

きっと親と話す時間をくれたのだ。優しいコンパクトだ。
私は急いでお母さんの元へ行った。

＊29→←＊27

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す