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「あーごめん、またあとでかけ直すね!」

その声とともに何も聞こえなくなった画面を見つめる
見つめ返してくるのは顔をくしゃくしゃにした私で、より一層惨めな気持ちになる

可愛い声だったな
私もあんなふうに五条さんに甘えたいし、もっとわがままも言いたい
名前だって呼んでみたい
でもそんな希望ももてないまま私の恋は終わるのだろう

くよくよしたって仕方無い
もっと前向きに、五条さんの彼女であるという幸せな事実を頭に叩き込もう
恋人になれた日の晩を思い出せ、人生であれほど幸せだったことなんてあるわけがないし、これからもないと自信を持って言えるほど幸せな日だった

あれ?何か引っかかる
あの日私はどうして告白なんてしたのか
恋人になる前は付き合えるはずがないと何度も頭で反芻していたのに
ああ、そうだ、都合のいい女でも良いと、ダメ元で告白をしてしまったんだ
なんだ
これが自分の思い描いた通りの未来じゃないか
悲劇のヒロインが聞いて呆れる

「ほんと、笑っちゃうね」

付き合う前、1度だけ隠し撮りをした彼が、ロック画面の向こうで無邪気に笑っていた









メッセージ無し
折り返しもしてこない
いつかの初デートの日、こっそりカメラにおさめた彼女が待ち受け画面で、ただ笑っていた
最初はこんなに束縛のない自由な恋愛は初めてだと歓喜したものだが、今はそんなことを言ってはいられない
隣できつい香水の匂いを撒き散らしながらベタベタしてくる女に、彼女にも向けたことの無いような優しい笑みを浮かべ僕はこう言った



「ホテル行かない?」

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作者名:ナノ | 作成日時:2021年4月21日 23時

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