□トド松 ページ6
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(…きっと、嫌われてないってことでいいんだよね)
部屋で松野さんに借りた黄色いパーカーを畳む。ちょっといい匂いの柔軟剤でフワフワに洗濯したソレを紙袋に入れると、しっかり冷めたらしいクッキーをたくさん袋に詰め込んだ。
休日の今日、ヒールのお礼とパーカーのお礼に行こうと家を出た。
松野さん家の前で「ごめんくださーい」と叫べば「はーい」と声がしてガラガラと引き戸があく。
ピンクのパーカーを着た松野さんがひょこっと顔を覗かせて私をきょとんと見ている。
「こんにちは」
「どちらさまですか?」
「……そこのアパートに越してきました、平野Aです。ちょっと用があって」
なんでここまで名前と存在が覚えてもらえないんだろうと割と本気で悲しくなる。
挨拶すると「へぇー!どうぞ!上がって!」と私を家の中に招き入れてくれた。
居間まで通されるのは初めて。落ち着く雰囲気だ。
「ねぇAちゃん」
「なんですか?」
松野さんは一足お先に卓袱台について、いきなり私の手首をきゅっと引っ張って座らせる。
「彼氏いる?」
「…はい?」
「いるかー。可愛いもんねー」
「いや…いませんけど…」
「え!?マジで?よし、連絡先教えて!」
嬉しそうに笑ってスマホを振る松野さんに私も流されるままスマホを取り出してふると、連絡先が入ってきた。
「暇な時連絡ちょうだい!」
「は、はい」
松野さんはンフフ〜と嬉しそうに両手で卓袱台に頬杖をつく。…なんだか女子力高い…。
「あ、これ、お借りしたパーカーと…クッキー作ったのでよかったら…」
「クッキー!美味しそう!」
「ありがとう!」と嬉しそうに受け取る松野さんが可愛い。家の中ではこういうキャラなのかな…親御さんがいる前だとこう…みたいな。
「あの…一人で住んでるわけじゃないですよね」
「ふぇ、ふん。ほーらよ(え、うん。そーだよ)」
「そうでしたか」
やっぱりと納得して、頷くと、「おいしい」とクッキーをつまみながらいそいそと私の隣にやってくる。
「Aちゃん」
「は、はい」
松野さんはキュルンとした目で私を見つめると、するりと腕を絡めて指まで一本一本絡めてくる。
絶句する私。ドッドッと心臓が動いて、ドキドキしてるのか危険信号なのかよくわからない。
「でも今は、Aちゃんと僕、二人きりだよ?」
「……………お、お邪魔しました!!」
身の危険を感じて頭をさげると急いで家を出た。
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