□珍客 ページ21
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「…計算が合わない…」
電卓を叩きながら首を傾げていると、カウンターの方から「Aちゃーん!」と私の名前をパートのおばさまが呼んでいる。
「どうかしました?」
「この人さっきから…」
「やっぱ!Aちゃんの職場だ!」
困ったように何かを押さえているおばさまに、そちらを見るとヘラヘラ笑っている松野さんが私の顔を見るとひょいっと片手を上げた。
「平日の昼間からすごい勢いで商店街を駆け回ってたので一応保護をと思って連れてきたんだけど…Aちゃんの知り合い?」
「あ、はい…ご近所さんです」
「じゃああと頼んだわよ」
おばさまはため息をついて私に彼を押し付けるとさっさと仕事に戻っていった。
「十四松くん」と言うと「Aちゃん!!」と食い気味に返事をしてくる。
「俺いきなり連れてこられたんだけどなんで?」
「むしろ聞くけどなんで商店街を駆け回ってたの?」
「忘れた!」
「あ、そう…」
たしかに十四松くんだから、なに言ってもしょうがないんだろう。
「あ、トド松がAちゃんのクッキー超美味しかったって言ってたからさ、今度俺にも作ってよー!」
「本当はあれ、十四松くんに作ったやつだったの。間違ってトド松くんに渡しちゃって…」
「だから今度ちゃんとお礼するね」と申し訳ない気持ちで笑うと「わ!まじで!?やったー!」とダボダボのパーカーでバンザイしている。
六つ子ってことはおそ松さんと同い年で私より年上のはずの十四松くんだけど、なんだか自分より年下の子と喋ってるみたいで和む。
「あ、Aちゃんって処女?」
「…」
前言撤回だ。
なにも和まない。
「なんでいきなりそんなこと聞くの?」
「おそ松兄さんとチョロ松兄さんが語ってたから。『あれは処女だな!男のちん」
「わー!」
突如始まる下ネタに思わず絶叫して十四松くんの口をふさぐ。
静まり返る区役所内で、ゴゴゴと怒りオーラ全開の井矢見さんが私の肩をガシッとつかむ。
「平野…」
「は、はい…」
「お前そのうるさい松を連れてさっさと帰るザンス」
「え」
「明日は8時出勤ザンス」
「はい!」
私にというより十四松くんに怒っているらしい井矢見さんは私にカバンをもたせて、十四松くんと二人まとめて区役所の外に放り出した。
「…帰ろうか、十四松くん」
へらへらと区役所を見上げている十四松くんに「あはは」と笑って言った。
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