□チョロ松 ページ2
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「…ん」
布団をぱぱっと畳むとカーテンを開けて顔を洗う。
和食基本の朝ごはんをものすごい速さで作ると白米を頬張った。
今日からこの町で暮らして、働いていくのか。
社会人2年目にして謎の人事異動でいきなりここに勤めることになった私は、平和に暮らせますようにと心で祈りながら「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
「…よし、行くか」
スーツをパリッと着て、おろしたての黒いパンプスに足を突っ込んで部屋を出る。
公務員と言っても、社会人になりたてペーペーの私の安月給じゃ、都内で借りれるアパートなんて限られていて、前のところより結構古め。
職場へ歩き始めると、ぼきっと嫌な音がして、
恐る恐る足元を見れば、パンプスのヒールがぽっきり折れていた。
「えー！ちょっ！なんで！？おろしたてなのに！」
「うわっ！」
パンプスを持って道の真ん中で絶叫する私のそばで、声が上がって、
そちらを見れば古き良きといったかんじの「松野」と表札のかかった一軒家からパジャマ姿で郵便受けに新聞を取りに来ている人が私を凝視していた。
「…すみません」
「いや…だ、大丈夫ですか？」
「…あんまり大丈夫じゃないです」
「越してきたばかりで予備のヒールがなくて」と告げると、彼は「んー…」と顎に手を添えると、「うちの玄関でちょっと待っててください」と私を家の中に招き入れてくれた。
昔懐かしい引き戸をガラガラと開けて玄関に入ると、靴を脱いで座らせてもらう。
木造のいい香りだなぁときょろきょろ見上げていると、「どうぞ」と駆け足で瞬間接着剤を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「越してきたばっかりなのに…大変ですね」
「…慣れてます、昔から不幸体質なので」
「…僕も兄弟に振り回されてばっかりだから、ちょっと分かるよ」
彼は私の隣に座って溜息をつきながら遠い目をしている。
私は接着剤でとめた靴を履くと、「ありがとうございました」と頭を下げながら立ち上がった。
「…そこのアパート？住んでるの」
「はい。安かったので…」
「近所だし、わからないことあったら聞いてください」
「わ！ほんとですか！ありがとうございます！松野さん！あ、私、平野Aです！」
接着剤を手渡ししながら握手して笑えば「あ、あはは！」と何故か目をかっ開いて笑う。「そ、それじゃあ！」と松野さんは私を送り出してくれた。
…いい人がいてよかった。
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