in the summer３【J.M】 (ページ19)

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すっかり黙り込んでしまった松本を横目に、言わなきゃ良かったかな？とAは少しだけ後悔を覚えた。
巽にポロポーズをされたのはもう10年も前のことで、Aは当時仕事をようやく覚え始めた頃で恋愛ごとに関心は無く、巽の気持ちも知らなかった。そもそも年上過ぎて恋愛対象外でもあった。
だから、帰国する話を聞かされた時は素直な気持ちで「日本でもご活躍を祈ってます」と言えたし、突然のプロポーズには驚愕したが「すみません、応えられないです」と断ったのだ。
Aにとっては、申し訳ないが取るに足らない思い出のひとつ。
じゃあなぜ松本に言ったのかと言えば、これからAと巽は仕事での付き合いが濃密になるし、もしも何かあった時のことと松本の性格を考えると隠しておく方がマイナスになりそうだと、直感的に思ったからだ。

「あの、潤？」

「‥‥なに」

「ごめんね、そのそんなに不機嫌になるとは思わなくって‥‥本当になんにもないんだよ？」

「‥‥A、行こう」

「え」

立ち上がった松本はAの手を取ると、有無を言わさずにバーを後にする。
引っ張られるままにエレベーターに乗り込んだ彼女は、フロントに向かうと思ったその箱が上昇を始めたことに違和感を覚えた。

「潤、ここ」

「ん？折角だから部屋取った」

こともなげに言い放って、ぐいと連れ込まれたのは冗談抜きに広々としたスイートで、Aは目を瞠った。
当日に、しかもほんの二時間足らずでこの部屋を取れてしまう松本潤と言う男の性格にも社会的地位にも驚かされる。
けれど、そんな気持ちよりも、部屋に入った途端に後ろから強く抱きしめてくるそのぬくもりにただ好きだという感情が膨れ上がる。

「も、巽さんと二人で飲み行くの禁止」

「え」

「昔自分にプロポーズしてきた男と二人っきりとかAは男舐めてんの？」

「え、まさか巽さんにそんなつもりはないでしょ」

「あのね、男はいくつになってワンチャン狙ってんの！ Aはもっと自分が男からどう見られるか考えろよ」

ぎゅうぎゅう抱きしめられて耳元で大声を出されてAは肩を竦めて身を捩った。
それを逃げと受け取ったのか、抱きしめられたままくるんと身体が反転して、アッと思った時には目の前に松本の濃くて端正な顔が迫っていて――

「んぅ」

性急なのに、ちゃんと気持ちが良いキス。
最初からしっとり深く重なった唇に、Aも自分から唇を開いて応えていた。