小話２−３ ページ19
「潤っ、みんな見てるっ！」
中庭から始まった騒ぎは窓から伝播して、今は多分結構な人数が覗いてる。
どうしようこれとんでもないぞ！？
そう思うのに、潤の腕の中は昨日と変わらずあったかくて気持ちが良い。
恥ずかしいから逃げ出したいのに、もっとぎゅってしてって気持ちも大きくなる。
好きな人と気持ちが通じ合って、私はどんどん欲張りになっていくみたい。
たった一日の間に、私の体の細胞全部が生まれ変わっちゃったみたい。
「A‥‥」
呼ばれて、ふと顔を上げる。
至近距離に潤の強い瞳。
「えっ、待ってっ！！」
「ぐえっ」
キスされる！？
そう思ったら思わず潤の顎を両手で押し上げていた。
苦しそうな潤の声が聴こえて、しまったー！って思ったけど、手の力も緩んだからささっと抜け出して一歩離れる。
「Aなんで逃げんの」
「だって」
「‥ここでキスすると一生一緒に居られるって言うじゃん」
ねぇ、そんなキャラだった？
そりゃロマンチックなの好きだって知ってるし、わりと少女漫画も読むよね？知ってるよ。
知ってるけど、ねぇ。
学校の、誰が言い出したのかわからないジンクスを信じて、私と、私とこれからもそう居たいって思ってくれてるの？
この間とは違った涙が体の奥から溢れて来るみたい。
どうしよう、私やっぱり潤のこと。
「大好き」
「っ‥‥知ってる」
二人して真っ赤になって、もうキスなんて言ってる場合じゃなかった。
でも、どこからか現れたカズと相葉くんがふっつーの声で「キースッ！キースッ！」なんて手拍子するから。
ちょっと離れたところでお兄ちゃん組の翔と智くんも呆れたように笑ってる。翔はちょっと小難しい顔してる？
ちらって顔を上げれば、困ったように照れた顔した潤が「見せもんにはしたくねぇよ、Aのキス顔」なんて言いよる。
なんて！言いよる！
馬鹿！好き！！
「こっち」
瞬間、取られた手のひら。
ぐっと引かれて、大きな桜の木の後ろ側に回り込んで。
また、悲鳴が聞こえる。どんな学校かと思われちゃうよ。
私の背中に桜の幹。
私の目の前に大好きな潤。
私だって、誰にも見せたくない潤のこと。
「A、一生離さない」
そうして降りてきたちょっとかさついた唇に、私も目を閉じる。
子供じみた願いでも。
信憑性のないジンクスでも。
私も同じ気持ちだよって心を込めて。
ファーストキスは最高の幸せ気分を運んでくれた。
おしまい
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作者名：お塩
| 作成日時：2021年5月28日 16時
