見届けます ページ11
それから。
座り込んだ松本の隣になんとなく立って、人待ちしながら熱いコーヒーを飲んで、二人はぽつりぽつりと会話をした。
長かった映画撮影が終わりその打ち上げで飲み過ぎてしまったこと。
二宮宛の荷物を受け取っていて持っていくと約束していたこと。
春めいた陽気が気持ち良くて歩いたけれど何故か無理だったこと。
けれど今まではこんな失態したことが無いこと。
「そう言えば‥‥おねーさん、なんで、こんな時間に」
そろそろ二宮との電話から40分も過ぎる頃、ようやくそれ？という質問を投げかけられて彼女は思わず遠い目をする。
「飲み会か、なんか、ですか」
「仕事です。職場に二日缶詰めで今日やっと午前様すれすれに帰れたところで」
「っすみませんでした！」
間髪入れない謝罪にまた笑ってしまった。すると松本はきょとんとしている。
「良いですよ、もう。乗り掛かった舟だって言ったでしょ。見届けますよ」
「‥‥恰好いいっすね」
「そんなことないと思うけど、ありがとう。それに、まさか松本さんとお話しできる現実があるとは思ってなかったんで、これはもしかしたら仕事を頑張ったご褒美なのかなって」
彼女がぺこりとお辞儀をすれば、松本はもう一度きょとんとした顔をして今度は破願する。
酔っぱらって、地面に行き倒れてちょっと汚れた顔が、暗がりの中できらきらと輝いている。
ああ、この人やっぱりイケメンだなぁなんて本日もう何回目かさっぱり解らない感想を抱いて、彼女はすっかりぬるくなったコーヒーを飲み干した。
「ちゃんと松本さんが二宮さんに叱られるところまで見てますんで」
「や、あー‥‥怒ってました、よね」
「平時を知らないので‥でも怒っていると思いますけど普通」
「‥‥だよなぁ‥やべぇ‥」
丁寧語が抜け落ちて、本気で参ったと言った様子で天を仰ぐ姿に、また笑ってしまう。
仲良しなんだなとこんな状況なのにほんわかする。
「さて、もう45分。そろそろかな」
路地からひょいと顔を出せば、ちょうどこちらに足早に走ってくる男性を見つけて、思わず手を振る。
知り合いでも何でもないのにシマッタ！ と思ったが、気がついた相手がはっとした顔をしてダッシュしてきた。
その顔が、怖い。
ああこれは二宮さん確実に怒ってるわと思う。同時に、隣の男の今後がちょっと心配になる。
確実にお説教コースなのだが、想像以上に叱られるのではなかろうか。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 266人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
お塩(プロフ) - ひーちゃんさん» ひーちゃんさん、コメントありがとうございます！えっ、ヒーちゃんさんも夢落ち潤担さんですか！？そんな偶然があるとは驚き過ぎて笑ってます。続きは実はできてるので、修正しつつそのうちページ作りますね！ゆっくりお待ちください！ (2021年9月22日 15時) (
レス) id: bdf4956e41 (このIDを非表示/違反報告)
ひーちゃん(プロフ) - お塩さま、作品を楽しく拝見させて頂いております。夢堕ち潤担！私もです( ・∀・)ﾉ﹛ﾊｰｲ!何だか嬉しく思いました。続きも心待にしております。 (2021年9月22日 2時) (レス) @page28 id: af081d03e4 (このIDを非表示/違反報告)
お塩(プロフ) - ゆぃさんありがとうございますっ！私の中ではむしろ一番古い話なので不思議な気分です(笑)創作意欲ばっかり溢れて実際は空回りですよ‥‥ふへへ。いつもゆぃさんに励まされてます！ほんとにありがとうございますー！！ (2021年9月1日 12時) (レス) id: c86e5730cc (このIDを非表示/違反報告)
ゆぃ(プロフ) - - ここにきてまさかの新作とは！驚きです！！お塩さんの書きたい意欲が凄い♪無理しないでくださいね~ (2021年8月30日 14時) (レス) id: 7a81be16ec (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お塩
| 作成日時：2021年8月7日 1時
