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めいちゃんside
翌日。
帰りのHRが終われば俺はすぐさま校舎の屋上へと向かう。
屋上で歌を歌うのだ、高1から始めている密かな俺の日課。
階段を一段飛ばししてリズムを刻む。
「♪」
鼻歌を歌いながら上機嫌に屋上への扉を開くと先客だろうか。
女子生徒が屋上の手すりに腕を置いていて、空は黄昏。
靡くスカートと髪に思わず目が釘付けになった。
稀に見ないエモい情景を目の当たりにして、入り口付近で足を止めてしまう。
ふと女子生徒を凝視すると彼女は空を見るわけではなく地面の方を見下ろしていた。
…は?
彼女のかかとが浮いてつま先立ち。
地面を見下ろすにしてもあまりにも前のめりすぎる。
流石に柵の高さ的に女子が余裕で越えられるものではないが俺の頭は冷静ではいられない。
首筋に冷汗が流れる感覚がした。
考えている暇なんてなかった、とりあえず荷物を入り口に置き去りにして前進。
「ちょ……何やってるんすか!!馬鹿!!!」
俺は彼女の方まで走り出して彼女の身体ごと俺は取り上げた。
あまりにも唐突に飛び出してしまったものだから俺はそのまま後ろの方に彼女を抱えたまま倒れ込む。
俺の腕の中に収まった女子生徒はセンラ先輩のクラスメイトのあの瞳の綺麗な人だった。
床に昨日も羽織っていたストールが落ちていた。
俺は近くに転がっていたそれを掴みそのまま彼女にかける。
30秒ほど腕の中に彼女を抱いていたが少し冷静さが取り戻されたのか俺はぱっと腕を広げ彼女を解放する。
「あ…えと…すみません、勝手に」
自分のした行動に後悔はないのだが抱き寄せてしまったことには少し申し訳なく思ってしまう。
それに俺自身、女の人とこんな距離感になったことがなくて恥ずかしさが込み上げてくる。
「ううん大丈夫。危ないから助けてくれたんだよね?…ありがとう」
彼女は俺の手をおもむろに触った。
声は明るい調子なのに表情は空虚感を感じさせる。
"危ないから"…?
いや違う、俺は彼女が"飛び降りそうだから"助けたのだ。
俺は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になる。
まさかとは思うが彼女はそんな気さらさらなくて本当にただ単に地面を眺めていただけなのか?
「いや、俺は先輩が飛び降り「昨日確かセンラくんと話してたよね」……はい」
俺が問い詰めようとすると彼女はそれを遮るように話し出す。
「えっと…確かめいちゃんって呼ばれてるんだっけ?」
儚げな表情は無くなって彼女は俺に笑いかけた。
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作者名:ふわむにゃ | 作成日時:2021年9月2日 2時