【俺屍】神の業と、人の性 −雷電・太刀風の章- （前章） ページ1
――それは遥か昔の物語。
人がまだ火を扱う術を持たなかった頃。
地上に住まう人々は獣に近しい存在であった。
昼間は、群れを成して狩りを行う。そして、夜。新鮮な獲物の血肉をすすった。
時には野に生える草を食み、木に実る果実を口にした。
冬は寒さに凍え、硬い岩でできた洞窟のなかで、ひっそりと春の訪れを待った。
ときに暗闇にもおびえながら、飢えに耐え、冷たい風をやり過ごす。
……人は、互いに身を寄せあって生きていた。
そんな人の様子を見ていた二柱の神がいた。
名前を『雷電 五郎(らいでん ごろう)』、『太刀風 五郎(たちかぜ ごろう)』という。
雷電は雷を起こし、太刀風は風を起こすことを生業とする神であった。
光に満ちた天界で、飢えも凍えも……ひもじいことを何も知らなかった二柱の神は、地上の人々の様子を憐れんだ。
そして、二人は相談した。
「おい、人がひもじいのはなぜだと思う？」
「飢えや凍えがあるからだな」
「それなら、飢えや凍えをなくすことはできないだろうか」
「……一つ案があるぞ」
「なんだ？」
「人に火を教えるのはどうだ？」
「なるほど、それは妙案だ」
火を持ては、寒い日は暖をとることができる。
暗闇におびえることもなくなるし、獣を狩るのにも便利であろう。
二柱の神は決断した。
――人に、『火』を与えると。
たとえそれが、人に関わってはならないという、天界の禁を犯す行為だとしても。
*
そうして、二柱の神の好意によって、地上の人々は火を手に入れた。
人々は火の明るさに驚き、その暖かさに歓喜した。
火の扱いを覚えた人々は豊かになり、二柱の神に感謝の気持ちを示そうと、彼らを祭る塔を立てた。――その名を、『九重桜』という。
雲を見降ろせるほど、高い位置まで伸びた塔。
それを見た、雷電と太刀風は大喜び。
例え自分たちが罰せられようとも。……人々は確かに喜んでいたのだから。
この二柱の神々は慈悲深く、人々を心の底から愛していた。
しかし。
――時が経ち。
人を守るはずの火は、いつしか互いを傷付け合う『炎』となった。
「雷電よ……」
「なんだ、太刀風」
「俺たちのしたことは正しかったのか？」
「……」
神々は悲しんだ。
人を愛し、守るために与えた『火』。
それが、いつしか人が人を傷つけるための道具となった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一花 | 作成日時：2014年7月9日 23時
