103 ページ3
元の時間に帰る旅路の中で、Aはポツリと言った。
「祈さんのお腹には私が宿っていたんだよね…」
あの二人は後始末をしたら刻刃家本邸へ帰るだろう。
そして正式に夫婦になってAが生まれる。
それはもう確定事項だ。
「お父さんお母さんって呼びたかった？」
五条の問いかけに少し考えた後、Aは頭を横に振る。
否定的な気持ちから呼びたくないのではなく……
「何だか実感が湧かなくて…物心ついた時には五条家にいたから……」
五条の両親にもお手伝いさん達にも、心から大切にしてもらっていた。
「今回の事で出自を疑うまで、疑問を持った事すら無かった……」
だからか、あの二人が実の親と知っても、父母と呼ぶのに違和感がある。
「いつか理解できるかな……？」
自分を手放さなければならなかった二人の気持ちを。
二人の親としての愛情を。
「いつかわかるよ。二人のAへの気持ちは」
「だと…良いな……」
五条の言葉にそれしか返せなかった。
話している間に時間の旅も終わりに近くなってきた。
(私達の時間が近いのがわかる)
五条が言っていた。
夜蛾と硝子、他にも沢山の人が泣いていたと。
(それなら今度は嬉し涙で泣かせよう)
少し意地悪な考えだとは思うが、嬉しいならまあ良いだろう。
「悟さん、私の手を取って」
「はい、どうぞ」
Aは左手を、五条は右手を繋ぐ。
そして空いた手をAは目の前の時間に伸ばす。
精神は何度も時廻りを経験しているので、どうすれば良いのかは理解している。
見えない扉を開くように二人は一歩を踏み出す。
帰ろう、大切な人達の待つ自分達の時間へ。
二人の踏み出した一歩は高専の敷地に着地された。
目の前には驚いた顔をした夜蛾と硝子が居る。
「夜蛾おじさま、硝子姉さん、ただいま！」
変わらぬその優しい声と笑顔に、二人は涙した。
そしてAに駆け寄って五条ごと抱き締めた。
「おかえりぃぃ〜！！」
「無事で良かった！！」
流石の五条もこの時ばかりは二人の邪魔をせず、無限を解いて締め付けを味わった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 82人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
露里唄(プロフ) - キャッスさん» ありがとうございます。最後まで書き切れるよう頑張ります。のんびり更新なので、気長にお待ち頂けると嬉しいです。 (2022年4月10日 14時) (
レス) @page9 id: 29cf707392 (このIDを非表示/違反報告)
キャッス(プロフ) - 続き楽しみにしています！頑張って下さい！ (2022年4月10日 5時) (レス) id: c645bbf7af (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：露里唄 | 作成日時：2022年3月6日 2時
