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インターフォンを何度か押すと、ものすごく低い櫻井さんの声が聞こえた。
「何しに来た」
げほげほって咳こんでる音が響いた。
「あの、えっと。風邪をひいたって聞いたので」
「ただの風邪だから帰れ」
「でも！松本さんが様子見てきてくれって」
「はあ？潤が？」
違う。
「……そうじゃなくて」
「じゃあ何」
明らかに苛立ってる。
「会いたいんです」
「は？」
「私が。櫻井さんに会いたいから来ました」
しばらくの沈黙の後、オートロックが開く音がした。
エレベーターで8階まで上がりそうっと玄関の扉を開けると。
玄関でしゃがみこんでいる櫻井さんが目に入った。
「櫻井さん！」
慌てて抱きおこすようにして体に触れたら、びっくりするくらい熱い。
「……こんなとこ見られたくねーっつーの」
「何言ってるんですか！寝室どっちですか」
指差された部屋のベッドまで運ぶと、加湿器に水を入れる。
タオルをしぼっておでこにのせる。
「薬は飲みました？」
「そんなもん…ねーよ」
「買ってきます！他に何か欲しいものありますか？」
首を横に振ったので、行こうとしたら、手をつかまれた。
「さっきの、どういう意味？」
「え？」
「会いたいって」
「そのままの意味です。
私はいつだって櫻井さんが何を考えてるか知りたいし、会いたいし、声が聞きたい」
「……」
「それって私の中では恋なんですけど。
櫻井さんが違うっていうなら違っててもいい。
ただ側にいたいんです」
ああ、病人に何言ってるんだろ私。
櫻井さんだって困ってる。
はず。
「……じゃあ俺も同じかもな」
えっ？！
「さ、櫻井さん」
私の手首をつかんでいた櫻井さんの手から力が抜けて、少し苦しそうな寝息が聞こえてきた。
……寝ちゃった。
前髪が少しはねていて、いつもより少し幼く見える。
聞き間違え、かもしれないけど。
ぼおっとしたまま櫻井さんが寝ている間に薬を買いに行って、おかゆの材料とポカリとリンゴも買う。
目が覚めるまでいてもいいかな。
もう一度聞いてもいいかな。
夕暮れの空は夜に向かうところで、紫とピンクが混じり合ったとてもきれいな色をしていた。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月22日 18時
