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「それは嫌」
急に不機嫌そうになった櫻井さんの声に、我に返る。
「はい？」
「二宮といるとこ今想像したらすげえムカついた」
「いやムカつかれても……」
あーもう。
あーもうもう。
私は思わず立ち上がっていた。
「櫻井さん！」
「え？！おま…何で」
二宮くんが困ったように笑って
「あーあ、来ちゃった」と呟いた。
「最初から信じられなくてもいいんです。
黙って離れようとしないで、言ってくれたらいいんです。何でも……今みたいに」
「ちょ、待って。どこから」
「最初から全部聞いてました」
櫻井さんが二宮くんをにらむ。
「ちょっとした賭けだったんですよ。
最後までAが黙って聞いてたら俺。
途中で止めたら翔さんをAは選ぶっていう賭け」
「え？そうだったの？」
そこまで考えてなかった。
「実際そうでしょーが。翔さんに言いたいんでしょ？俺じゃなくて」
私が頷くと、二宮くんが立ち上がった。
「じゃ、俺行くわ。
あとは好きなだけ2人でどーぞ」
「二宮くん！」
「ありがとう、とか、ごめんね、とか。そういうのいらない」
「う……」
じゃーね、と二宮くんは店を出て行く。
立ったままの私に櫻井さんが前の席を顎で指した。
「座れば」
「…はい」
「さっきの話だけど」
「その前に一つだけ、確認したいんです」
「何」
「櫻井さんは、私と一緒にいたいって思ってるってさっき言ってましたけど。それって」
「…そーいうことだよ」
「そういうことってどういうことですか」
自分の髪をぐしゃっとつぶして俯く櫻井さん。
「わかってんだろ」
「わかりません！櫻井さんの考えてること、いつも全然わかりませ…」
「…きだからだよ」
「え？」
「だから！好きだから一緒にいたいって言ってる」
私の世界の真ん中にいた櫻井さんは。
いつも後ろ姿だった。
いつも背中しか見えなかった。
「初めて、見えた」
「は？」
初めてこっちを見てくれた。
「なんで好きって言われてるのに怒られてるんだろう私」
「怒ってはない」
「もしかして。照れてます？」
「調子にのるな」
私が下を向いて笑いをこらえていると、櫻井さんも
ふっと笑った。
「好きです、私も。たぶん初めて会った時からずっと」
本当はもっと。
いろんな気持ちがある。
だけどうまく言葉にできなくて、私はそんな普通のことしか言えなかったけど。
櫻井さんは今まで見た中で一番柔らかく笑った。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月22日 18時
