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二宮くんの言ってることはわかったけど、私はまだ混乱したまま二宮くんたちの後ろの席に座った。
と、そこに櫻井さんが店に入ってきて、二宮くんが立ち上がった。
私は言われたとおり櫻井さんの方は見ないようにする。
ちょうど背中合わせになるかたちで櫻井さんが座った。
「話って何」
運ばれてきたビールに口をつける前に櫻井さんが低い声で言う。
「昨日、見たんですよね」
「は？」
「俺の家からAが出てくるとこ」
私は驚いて思わず振り返った。
櫻井さんの背中越しに二宮くんと目があう。
昨日？
二宮くんの映画をDVDに落としてもらった帰り？
「別に俺は弁解しませんよ、昨日Aはうちに来た。それは事実ですから」
ちょ、ちょっと待ってよ。
「下心もありましたしね」
そんな言い方したら何かあったみたいじゃない。
櫻井さんがビールを一口飲むとジョッキから水滴がぽたりと落ちた。
「……お前らがどうこうじゃねーんだわ」
二宮くんは、やっと口を開いた櫻井さんをじっと見た。
「俺の問題」
「なんだ」
「なんだって何」
「わかってたんだ」
二宮くんの言葉に、櫻井さんが少し笑う。
「俺は…根本的に人を信じられない。
たぶん生まれ育った環境のせいもあるけど」
生まれ育った環境。
帰ってこなかったお母さん。
胸がずきん、と痛む。
「例えば昨日。
実際には何もなかったとしても、俺はAを信じてやれない。
そういう小さな溝が一緒にいてもずっと埋まることはなくて。
いつか絶対にAを傷つける」
「一緒にいたいって思うんだ？」
「……Aをそばに置いておきたい、って思うのはエゴでしかない」
「だから踏み込めない。
急に離れようとする……か」
二宮くんはぐびっとビールを飲むと、口のはしについた泡をぺろりとなめた
「俺はいい人になるつもりなんかさらさらないから。
翔さんがそうするなら止めません。
むしろ離れてくれてラッキーって思ってる」
二宮くんが私の方を見てる。
「俺んとこくればいーのに、って言うよ」
二宮くんがさっき言った言葉が、頭の中で響く。
Aが決めていーよ。
Aが決めて。
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作者名：つむ
| 作者ホームページ：
作成日時：2018年1月22日 18時
