Orange halation 2 【S.S/K.N】〈完結〉 (ページ20)

今日:2 hit、昨日:11 hit、合計:240,431 hit

54. ページ20

こうして私と櫻井さんはお付き合いを始めたわけで。

だけどどうして急にこんな展開になってるんだっけ。

「あの、やっぱりまだ早くないですか？
私の母に挨拶するなんて」

付き合い始めた最初の週末に、櫻井さんの希望で私の家に向かってはいたものの、私はまだ迷っていた。
櫻井さんは休みの日なのにスーツ着てる。

雨がぱらぱらと空から降ってきたから、傘を差した。

「なんで」
「なんでって、まだお付き合いを始めて一週間も経っていないのに。
ほらあの、母に挨拶をする、ということはええと、母はそう思うんじゃないかなって」

「結婚、てこと？」

私が言いにくかった二文字をあっさり言う。

「付き合うことにすらあんなに慎重だった櫻井さんに、結婚を意識させることは重荷になるんじゃないかなって」
「バカじゃねーの」
「バ！これでもいろいろ考えて」

「俺はそのつもりで付き合った。
そんな中途半端な気持ちじゃない」

「あ、そうなんですか。それなら……え？！
そのつもりって。結婚、するつもりでってことですか？」

「嫌？嫌ならしないけど」

「嫌なわけないじゃないですか！喜んで！」
「何その居酒屋店員みたいな返事」
「あ、じゃあもう一回お願いします」
「言うか」

そんな風に茶化していたけど、家で母に会った櫻井さんはきちんと正座をして頭を下げた。

「お母さん、同じ会社の」
「櫻井翔と申します。Aさんとは結婚を前提にお付き合いをさせていただいてます」

お母さんは驚いていたけど、そうですか、と言っただけだった。

「ただ僕はお母さんにお話しておかないといけないことがあります」

え？何だろう？

「お父さんの最後の映画の配給会社で営業を担当したのは、僕です。
僕の判断が間違っていたから、最後の映画はあんなに赤字だった」

「櫻井さん、違う。やめて」

私が止めても櫻井さんは頭を下げ続けた。

「申し訳ありませんでした」

「そう言われると。お会いしたことがあるような気がするわ。
ただあの人がどうして死んだのか、それは誰にもわからないし、私ももう考えるのをやめたの」

「謝りたかったのはただの自己満足かもしれません。だけどAさんと一緒になるなら見て見ぬふりはできなかった」

「もう顔を上げてください」

「もう一つあります」

櫻井さんのよく通る声が静かに響いた。